「トイレへ連れて行ってくださ~い。」頻尿頻コールの謎

ナースライター 浦田克美
ナースライター 浦田克美
「トイレへ連れて行ってくださ~い。」頻尿頻コールの謎

「すみませ~ん。トイレ」と数分ごとのナースコールに「さっき行ったばかりですよ。」と返答して自己嫌悪。
忙しい業務中に容赦無く鳴り響くナースコールに「今行きます!」と返答しながら、ラットレースのように走り回る毎日。


病院看護師が勤務中に行っている看護業務の
第1位「ナースコール センサーマット対応」
第2位「看護記録」
第3位「排泄介助」  1)
というデータからも伺えます。

今回は、病院看護師が陥りがちな排泄ケアのラットレース化を脱するために、
患者さんの頻尿頻コールの謎について深掘っていきましょう。


1.なぜ看護師達は患者さんの頻尿頻コールに怯えるのか?

なぜ看護師達は患者さんの頻尿頻コールに怯えるのか?

頻尿頻コールの謎を明らかにする前に、それがもたらす恐怖について共有します。なぜ、看護師達は頻尿頻コールに怯えるのでしょうか?


1つ目は転倒転落事故。
患者さんが病院内で転倒転落した場合、真っ先に過失を問われるのは看護師だから。私自身、過去に何枚も転倒転落報告書を提出した経験があります。その多くが「トイレに行こうと思った」「尿が漏れそうだった。」と排泄行動が動機になっていました。


排尿回数と転倒の相関性はすでに報告されており“一晩に3回以上排尿に起きる場合は5%が、4回以上起きる場合は10%が年に1回以上転倒する”2)というデータもあります。


私は、幸いにも外傷や骨折事例に遭遇したことはありませんが、後遺症のため裁判になった報告もあります。 したがって看護師は、頻尿頻コールの度に病室とトイレとステーションをクルクルと動き回るしかないのです。それでも、転倒転落をゼロにするのは難しいのに…。


2つ目は残業。
勤務交代は、ナースコールから解放される神タイムです。しかし、その頃には体の疲労で頭が飽和状態。後回しになった看護記録をぼーっとしながら終わらせる毎日。そんな時間にも容赦なく会議や勉強会がたくさん入ってきます。看護師のプライベートタイムはかなり短い…。


3つ目は自己嫌悪。
排泄ケアは看護師の仕事とはいえ、トイレ介助を繰り返しても頻尿頻コールが減るわけではありません。目に見える成果を感じられないことから、患者さんに対して「さっきもトイレ行きましたよね!」「おむつの中に排尿しても良いですよ!」と、優しくない言葉をかけてしまうことも。そんな自分が嫌になり「こんなことをするために看護師になったんじゃない!」と転職サイトを検索した経験はありませんか?


しかし、転職を決める前に排尿障害という視点で考えてみましょう。
「トイレに連れて行ってください。」とナースコールできる患者さんは、尿意を感じる力と意志を伝える力が残っているのです。つまり、尿もれに対する羞恥心や排泄はトイレで済ませたいといった、社会的な排泄行動を維持しようとしている証拠です。


2.なぜ頻尿になるのか?

頻尿の原因は、主に3つ。
利尿剤、高利尿ホルモン異常、糖尿病による多飲などによる多尿と、膀胱炎などの尿路感染症、そして膀胱の蓄尿障害です。

膀胱の蓄尿障害とは、脳血管障害、パーキンソン病などの脳や神経障害などさまざまな原因で膀胱容量が低下している状態です。例えば、尿の貯留が少ないのに膀胱が頻回に収縮するため頻尿となる過活動膀胱や、前立腺肥大により尿道が圧迫され、膀胱内に残尿が増え機能的膀胱容量が低下する前立腺肥大症などが代表的です。サプリメントや尿もれパッドなどの商品が多く販売されていることからも、頻尿で悩む方が多いことが推測できます。

そして、冒頭のエピソードのように看護師を悩ませるのは、活動性や認知機能の低下によりトイレ介助が必要なケースです。つまり、頻尿+高齢者。

2021年に「フレイル高齢者・認知機能高齢者の下部尿路障害に対する診療ガイドライン」3)が発刊されました。これは、科学的な根拠や対策があることを意味しています。

さて、病棟看護師を悩ます頻尿頻コールの謎は、過活動膀胱や前立腺肥大に代表される膀胱の蓄尿障害と活動性や認知機能が低下した高齢者である場合が多いことが見えてきました。次に看護師ができる対策の最新情報について紹介します。


3.どうしたら頻尿頻コールを減らせるのか?

今回は、頻尿の原因である膀胱の蓄尿障害の中で、高齢者に多く一般的な過活動膀胱と前立腺肥大に話を絞って進めていきます。

まず命に関わるのは前立腺肥大による頻尿です。前立腺肥大で残尿が増えると逆行性の腎盂腎炎を併発します。これは、高齢者にとっては命取りです。一般的な膀胱容量は、250~300ml程度ですが、排尿後に残尿が50ml以上ある場合は治療が必要です。

そこで、頻尿頻コール対策のファーストステップは、頻尿と残尿の関連を評価すること。もちろん、医師に検査依頼するのも一つですが、最近ではエコーで残尿を評価する看護師が増えてきました。約2分程度で苦痛を与えることなくタイムリーに実施できます。エコーなんて使ったことない!と思われるかもしれませんが、聴診器で肺音を聴取するのと同じ感覚です。エコー機も進化し、残尿測定専用やスマートフォンサイズのエコーが次々と販売されています。

その他、エコーは排泄ケア領域でかなり看護師の味方となります。
例えば頻尿頻コールの際、膀胱内の尿量を評価できます。尿量を確認してから、トイレ誘導することで排尿パターンの把握や定時排尿を促すことができます。

逆に膀胱内の尿量が少ないのに頻尿を訴える過活動膀胱では、尿を我慢させる膀胱訓練という行動療法があります。尿に固執しないよう気を紛らわしながら膀胱容量を増やすのが目的です。経験上効果的だったのは、「今までの人生で一番幸せだった頃の話が聞きたいです!」と、患者さんのHappy Storyを聞き出す作戦。最新情報ではありませんが、かなり時間稼ぎできました。初めは、「そんなの忘れた。わからない。」と返答されますが、昔の話は覚えているものです。患者さんの幸せそうに語る表情には、ヒーリング効果があります。

さて、頻尿頻コールを減らす方法に話を戻します。
エコーの他にも今後期待しているのは、下腹部にセンサーを貼付し、膀胱内の尿量が増えた時点でスマートフォンへ連絡が来る排尿予測デバイス(商品名:Dfree)。排泄問題は羞恥心を伴うため、もっとIT化した方がWell Beingに繋がると思っています。

しかし、そんなIT機器は使えない!という方が多いのも看護介護業界の特徴です。それなら、排尿日誌を3日間つけてみましょう。

どんな方法でも、重要なのは排尿量と排尿パターンを評価することです。頻尿頻コールに振り回される前に、排尿をマネジメントすることで、患者さんや看護師にとってwin-winになるはずです。


まとめ

最後に、今回は頻尿頻コールの謎についてまとめてみました。原因は、過活動膀胱や前立腺肥大に代表される膀胱の蓄尿障害と活動性や認知機能が低下した高齢者であるということ。今のままでは、頻尿頻コールは超高齢社会に伴い増加の一途です。それに付随して転倒転落、看護師の残業と転職の増加が免れません。だからこそ、エコーやセンサーなどのIT機器を活用し排泄ケアをマネジメントする力が、これからの看護師に求められています。

今提供している排泄ケアは、私たちが数十年後に受けるケアです。COVID19の影響でIT化のハードルが下がった今こそ、win-winの排泄ケアに転換する絶好の機会ではないでしょうか。

次回は、褥瘡対策にエコーを活用する方法がテーマです。
では、またお会いしましょう。



引用参考文献
1)厚生労働省 医療従事者の需給に関する検討会第3回看護職員需給分科会 看護職員需給推計関係資料 平 成 30 年 9 月 27 日
https://www.mhlw.go.jp/content/10801000/000360602.pdf
(アクセス日2022/3/23)

2)布施 美樹  過活動膀胱の疫学
https://www.ibaho.jp/documents/newspaper/hns_201408_l.pdf
(アクセス日2022/3/23)

3)日本サルコペニア・フレイル学会 国立長寿医療研究センター フレイル高齢者・認知機能高齢者の下部尿路障害に対する診療ガイドライン

ライタープロフィール

【浦田克美】
看護師経験25年。皮膚・排泄ケア認定看護師、特定看護師(創傷管理分野)、おむつフィッターの資格を取得。現在東葛クリニック病院勤務。

褥瘡ケアと仲間作りを目的に毎月YouTube LIVEで情報発信中。
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