リフレーミングコラム ネズミとの共同生活?!~看護師歴20年を超えて考えさせられる健康とは?~

代筆ライター 西山妙子
代筆ライター 西山妙子
リフレーミングコラム ネズミとの共同生活?!~看護師歴20年を超えて考えさせられる健康とは?~

看護師になって20年以上、その多くの時間を私は病院看護師に費やしてきました。そこで知人に勧められ、はじめて訪問看護師としてデビューした勤務先での出来事を紹介します。



訪問先は〇〇屋敷?!

担当のAさんは当時70代後半の、生涯独身の男性患者さんです。ご本人曰くご両親もご兄弟も他界されていて、身内と呼べる人はいません。私がはじめてお邪魔したのは、転職した訪問看護ステーションがAさんを受け入れはじめて2~3週間目の頃でした。病院での勤務歴が長い私にとって実習以来の訪問看護。看護師歴の長さが神経を図太くさせたのか、戸惑うことなく仕事をこなせる自信があったのも事実です。

就職初日。1件目にAさんのお宅に向かうのですが、同行してくれる所長が「マスクは2重にしたほうがいいです。」「手袋も多めに持っていきましょう。」と訪問前にそわそわと準備しています。そして、15分ほど自転車を漕いで着いた先は古びたアパート。インターホンを繰り返し押して出てきたAさんは、ところどころ穴の空いたスウェット(しかも上下違うもの)を身にまとっていました。目をこすりながらそのまま出てきては、玄関の外に折りたたみ椅子を広げて座り腕を出します。そして、他愛もない会話をしながら玄関の外でバイタルを測り始める所長。なぜ、玄関の外でバイタルをチェックするんだろうと不思議に思いましたが、すぐにその答えがわかりました。ご自宅内には足の踏み場がないくらいたくさんの荷物があるからです。そう、いわゆるゴミ屋敷。さすがに看護師歴が長くても、衝撃が大きかったことを鮮明に覚えています。



自立した生活とは?

基本的には外出も料理も自分でされ、一人で生活が出来るAさん。しかしてんかんや精神疾患を患っており、大事なものをすぐに失くしてしまったりお金を計画的に使えなかったりすることから、精神面のフォローが必要です。また、てんかん発作か、意識消失によって緊急搬送されたことから、定期的な健康管理と緊急対応に備えなければなりません。これら3つの理由から訪問看護が導入されることに。ゴミとも荷物とも区別のつかない部屋の中には、素敵な食器やプロ並みの調理器具、壊れたミシンやマッサージ機などが多数ありました。「いつか直して使う」と言っていましたが、その「いつか」はきっと来ないだろうと容易に想像できたのです。そんな環境ですから、部屋の中には虫、そしてネズミもいます。「チューチュー」と鳴き声が聞こえることもあり、「きゃー」と声をあげることもしばしば。「ねずみだってかわいいよ。なんでそんなに嫌がるのよ。」Aさんに何度かこう言われたことがあります。Aさんがこう言う時はたいてい、ねずみの声がしたり姿を見かけて私が「ギャー」とわめいたりした後でした。ねずみの気配を感じた日は、どうしても心穏やかにケアできない自分がいました。


自立した生活とは?


その人らしい健康な生活を考える

急性期病棟では「治療を受けて今よりもより良い状態になるための援助」を、慢性期病棟では「今よりADLを低下させず、より良く暮らすための援助」を看護として提供してきました。しかしそれまでの経験とはまた違った目線で、個人の「幸せ」や「健康」という価値観に寄り添い提供する看護を考えさせられたのがAさんとの出会いです。ねずみとの共同生活は、私にとっては非日常でありえないこと。しかしAさんにとっては、日常であり大事にしたい空間なのです。趣味の品々に囲まれ、決して衛生的で安全とはいえないけれど、なぜか胃腸炎になったり怪我したりしないのでした。

WHOでは「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること」と定義されています。Aさんにとって「健康」な生活が維持できるようなサポートが訪問看護の支援として求められています。

人はついつい自身のものさしで測った価値観が「正」であると捉えがちです。「患者さんの立場になって考える」は、看護師自身の価値観を押し付けることなく、患者さんの「大事にしたいこと」が何かを見極め・尊重しつつ、プロとして必要な看護を組み立てていくことだと強く、強く考えさせられました。自信満々で挑んだ訪問看護でしたが、イライラした気持ちで対応してしまった自分にちょっとだけ悔しく感じたものです。看護師20年なんて、本当「まだまだ」ですね。




リフレーミングコラムとは?

このコラムでは、看護職としてお仕事をしている皆様のなかで、心に残るエピソード、もっと上手く対処したかった悔しい経験、今だからクスッと笑える話を共有し、前向きに昇華したいと考えています。日々積み重なっている思いを同じ職種だからこそ分かち合える「看護」という共通言語でつづり、皆様にとって何かの助けになることを願っています。

ライタープロフィール

~代筆ライター~
【西山妙子 (にしやまたえこ)】ナースLab認定ライター
総合病院の外科、脳外科、I C U、大学病院支出室を経験し結婚、子育てを経て訪問看護の道へ。199床総合病院の看護部長を経験した。現在は訪問看護ステーションに非常勤として働く。看護師の横のつながりや多様な働き方、ライスタイルを提案するナースのためのオンラインサロン「ナースライフバランス研究室」を2017年より企画運営(現在会員約1500ほど)ナースまつり2024大会長。

看護師による看護師のためのwebメディア「ナースの人生アレンジ」

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