本当に普通食でいいの?高齢者の食種選択に役立つ3つの質問

ナースライター 西依見子
ナースライター 西依見子
本当に普通食でいいの?高齢者の食種選択に役立つ3つの質問

急性期病院では日常的に緊急入院があります。入院時に医師から食事の指示は出されますが、「本当に普通食で大丈夫なの?」と感じることもあるのではないでしょうか。

今回は、普通食では難しい場合とはどのような状況であるのかを、高齢者の摂食嚥下機能の特徴から説明します。そして、入院時の食種選択を判断するために、看護師が知っておくと良い3つ質問についてお伝えします。


1.高齢者の摂食嚥下機能の特徴

脳血管疾患や神経難病疾患を持つ人への食事は、嚥下調整食などの食事形態の調整が必要であることはよく知られています。

しかし、心疾患、整形の疾患などの脳神経に影響をもたらさないと考えられている疾患を持つ人への場合は、簡単な問診や施設からの情報提供で食種の決定がなされていることもあります。

現在は、入院される多くの方が、高齢者となっているため、脳神経に影響を与える疾患を持つ人以外の入院においても、誤嚥や窒息予防の観点を持つことが大切です。

高齢者は、加齢の影響を受け、摂食嚥下機能が低下しやすくなっているためです。

高齢者の、加齢による摂食嚥下機能への影響には、歯牙の喪失、嚥下関連筋群の低下、呼吸と嚥下のタイミングのズレなどがあります。

<噛める歯が減ってきます>
近年の高齢者は、昔に比べて歯が残っておられる方が増えています。

しかし、歯が残っていても硬いものが問題なく食べられるというわけではありません。

十分な咀嚼には、かみ合わせることができる、臼歯と上の歯の咬合が必要になります。
歯があるように見えていても、上の歯がない、臼歯がないとなると咀嚼が不十分なまま飲み込んでしまうため、誤嚥などの危険性が高くなります。

<摂食嚥下に関する筋力が低下しやすくなっています>
加齢とともに、手足の筋力が低下するのと同様に、摂食嚥下に関連する筋力も低下していきます。特に男性は、喉頭に重さがあるため、安静時の喉頭の位置自体が低くなることもわかっています。

これらが生じると、一度にたくさんのものが飲み込めない、飲み込んだ後ものどに食物が残るなどの症状を呈しやすくなります。

<飲み込む際の呼吸と嚥下のパターンが変わってきます>
飲み込むときには、成人では吸気ー嚥下ー呼気のパターンが多いのですが、加齢とともに、飲み込む際の、嚥下性無呼吸(飲み込む時、息を止めていること)が保ちにくくなり、吸気ー嚥下ー吸気のパターンになることがあります。

嚥下後に吸気が後続されることによって、のどに残っていた食べ物などが気管に入りやすくなる可能性があります。

これらから、脳神経に影響が出やすい疾患を持つ人以外でも、高齢者は誤嚥の危険性が高くなる場合があることを知っておきましょう。


2.知っておくと役に立つ3つの質問とは

知っておくと役に立つ3つの質問とは

どうすれば、摂食嚥下機能が低下している高齢者に気づくことができるでしょうか。

摂食嚥下機能の低下を発見するには、フィジカルアセスメントと問診が重要になります。
今回は特に、問診時の大切な3つの質問についてお話します。

入院してきた際、家や施設での食事について「食事は普通のものを食べていましたか?」と質問することはないでしょうか。

多くの場合、「普通の食事です」と、答えが返ってきます。
しかし、高齢者にとっての「普通の食事」と、医療職が考える「普通食」は違うものを指していることがあります。

例えば、家では、歯の不具合で、硬い肉や野菜は避けていると言った方がおられます。このような方は、日常生活の中で、「硬いものを避けて食事することは普通のこと」になっています。
そのため、実際は硬いものを避けた食事が必要なのに、「普通の食事です」と答えたがために、病院では普通食が提供され、誤嚥や窒息の危険性が高まるといったことがあります。

「硬い肉や野菜は普段食べられていますか?」
このように質問すると、
「いいえ、歯の具合が悪いので、やわらかいものしか食べれないです。」
と、答えられるでしょう。そうすると、嚥下調整食3や4などの食事形態に相当する食種を選択することが容易になります。

また、加齢による摂食嚥下関連筋群の低下や、呼吸と嚥下のパターンの変調で一番誤嚥の危険性が高いものは、水分に関係するものです。

「汁物やラーメンを食べるとむせたり、食べにくいと感じたりすることはないですか?」
「水分はとろみを使用せずに、普通にコップから飲まれていますか?」
といった具体的な質問が、この場合では重要になります。

「汁物やラーメンを食べるとむせたり、食べにくいと感じたりすることはないですか?」
この質問は、軽度の水分での誤嚥兆候がある人を発見するための良い質問になります。
固形物と水分を一緒に摂取することは、水分だけを摂取するより高度な摂食嚥下機能が必要になるからです。
特に、麺類は、咀嚼をほとんどせず吸気で丸のみしながら摂取しているため、難易度が高い食形態になります。この質問に「はい」と答えた人には、食事場面の観察をより慎重にしたほうがよいでしょう。

「水分はとろみを使用せずに、普通にコップから飲まれていますか?」
この質問は、水分摂取に工夫が必要な人を見逃さないために大切です。

高齢者のなかには、すでにとろみをつけていたり、ストローを使用して水分摂取をしている方がいます。
このような方は、すでに水分で何らかの問題を呈している可能性が高いため、見逃してしまうと、誤嚥性肺炎の危険性がさらに高くなるので注意が必要です。

これらの質問を用い、その人にとって安全な食種かどうかを判断する情報にしていきましょう。


小さじ

まとめ

高齢者の加齢による摂食嚥下への影響には、歯牙の喪失、嚥下関連筋群の低下、呼吸と嚥下のタイミングのズレがあります。

そのため、フィジカルアセスメントと問診は重要です。

「硬い肉や野菜は普段食べられていますか?」
「汁物やラーメンを食べるとむせたり、食べにくいと感じたりすることはないですか?」
「水分はとろみを使用せずに、普通にコップから飲まれていますか?」といった、より具体的な質問を、患者・家族、または在宅スタッフに行い、安全な食種選択の判断の情報としていきましょう。


~ライタープロフィール~

【西依見子】
食べることと生きる力をつなげるTaste&See 代表。慢性疾患看護専門看護師、摂食・嚥下障害看護認定看護師の資格を用い各施設へコンサルテーションを行っている。「食べたほうがいいのか、食べないほうがいいのか?」といった現場の疑問を解消すべく、スタッフが、口腔ケアを含めた「食べること」への理解を深めるサポートを提供。現在、『コンサルタントナースのスペシャリスト応援ブログ』というブログを配信中。

『コンサルタントナースのスペシャリスト応援ブログ』
https://taste-and-see.info


メルマガ登録

おすすめ記事や最新情報をお届けします。

メルマガ登録

公式LINE

おすすめ記事や最新情報をお届けします。

友だち追加