私たちはどんな性教育を受けてきたのでしょうか?
保健体育の授業や宿泊研修前に女子と男子が別々に呼び出されたことを思い出す人もいるでしょう。一方で、性教育を受けた記憶がない人もいますよね。
近年、性教育について高い関心が寄せられています。この記事を読むことで、性教育がなぜ注目されているのかが理解できるでしょう。最新の性教育事情を海外の性教育事情と比較して解説します。
日本における性教育の今まで
日本の性的同意年齢が13歳と諸外国に比べて低いことやジェンダーギャップ指数が先進国の中で最下位であることをご存知でしょうか?
日本の性教育は他国に比べて遅れているといわれています。その理由を解説します。
戦後の日本は性教育として禁欲主義の純潔教育を行っていましたが、1970年代から1990年代にかけて科学的な性教育にシフトしていきました。
性教育は盛り上がりを見せましたが、2000年代に入ると状況が一変。行き過ぎた性教育が日本の伝統的な家族観を破壊すると問題視する動きが起こり、結果的に学習指導要領において「人の受精に至る過程は取り扱わないものとする」と変更されたわけです。これは、学校教育では「性交については教えられない」ことを意味し、はどめ規定と呼ばれています。それ以降、性教育は自粛傾向に向かい、現在に至るのです。このことが、日本の性教育が遅れた要因の一つとされています。
日本における性教育の最新事情
日本では、2023年より文部科学省を中心に「生命の安全教育」が推進されています。これは、子どもたちが性暴力の加害者、被害者、傍観者にならないことを目的とし、幼児期から各発達段階に合わせて指導されています。ただし、学習指導要領の制約もあり、学校教育では国際レベルの性教育の実践が難しいのが現状です。
教育現場では性教育自粛の傾向が続いており、性教育に取り組む教員の余力不足が問題視されています。そのため、医師や助産師が学校に出向いて性教育するケースも増加傾向です。また、家庭での性教育にも注目が集まっています。
海外における性教育の最新事情
近年、注目されている性教育は、包括的性教育と呼ばれています。2009年に、国連教育科学文化機関(UNESCO)を中心とした国際機関が、国際的な包括的性教育の指針として「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」を発表しました。
学習内容は8つのキーコンセプトで構成されています。
①人間関係
②価値観、人権、文化、セクシュアリティ
③ジェンダーの理解
④暴力と安全確保
⑤健康とウェルビーイングのためのスキル
⑥人間のからだと発達
⑦セクシュアリティと知的行動
⑧性と生殖に関する健康
生殖や性的行動だけではなく、人間関係の在り方や多様な性への理解についても学習内容に組み込まれています。「性」だけでなく「生」について学ぶ、人権教育であることが理解していただけるでしょう。
欧州諸国だけでなく中国や韓国、台湾、タイなどアジアの多くの国でも包括的性教育が学校教育に導入されています。幼少期から18歳以上の若者まで、成長発達に応じて継続的な学習が実践されています。
包括的性教育では、変化の多い時代を生き抜くために必要な、自分の心と体を守る力、幸せに生きる力、多様な価値観を尊重する力が身につくのです。
まとめ
変化の多い時代にあらゆる年代の健康に寄与し、人に寄り添う仕事を担う看護師の皆さんに、ぜひ知ってもらいたい最新の性教育事情を解説しました。
性教育について学ぶ機会は少ないのが現状です。だからこそ、子どもも大人ももっと気軽に「性」について話して欲しいものです。
以下のリンクより「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」を無料で読むことができます。興味を持った方はぜひご一読ください。
引用参考文献(外部サイト)
1)ユネスコ;国際セクシュアリティ教育ガイダンス【改訂版】,明石書店,2020
2)内閣府;男女共同参画局発表資料 男女共同参画に関する国際的な指数
ライタープロフィール
【真瀬みなみ(ませみなみ)】ナースLab認定ライター
看護師・助産師。年間500人の赤ちゃんの家庭訪問をする助産師。
総合病院にて新生児集中治療室・産科病棟、不妊治療専門クリニックを経験。2回の転職を経て現職へ。現在は保健センターで新生児乳児訪問に従事しながら、性教育講師や医療ライターとしても活動する。
趣味は旅行。愛称はじょさんしハムちゃん。ハムスターに似ている。
ブログ:『現役助産師ハムちゃんが運営する助産師ブログ』助産師ドットコム
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