皆さんの職場には夜勤のスイーツタイムはありますか？ 夜勤前に立ち寄るスーパーやコンビニのスイーツ売り場ですが、シュークリームを手にすると、今でも1年目のことを思い出します。20年前、私は総合病院の外科病棟に勤務していました。とにかく出来の悪い新人でしたので、しょっちゅう先輩に怒られていました。自慢にもなりませんが失敗の数は同期の誰よりも多かったと記憶しています。
その度に先輩に厳しく注意されては、病棟のあちらこちらでよく泣いていました。

当時、担当していた患者さんは胃がんの60代後半の女性でした。同室の高齢者の患者さんのことも気にかけ、何か手伝ってあげたりするいわゆる世話好きな方でした。胃亜全摘を受け、術後は順調に回復し退院されましたが、半年が過ぎ、再び私の病棟に入院をすることになりました。食事がほとんど取れなかったといい、かなり痩せていました。検査の結果、診断には腹膜播種が付け加えられていました。
医師からの説明では余命は３ヶ月。脱水や栄養状態を補正しながら、今後の治療について考えることになりました。患者さんには一人息子がいました。心配して毎日仕事帰りにお見舞いに足を運んでいました。

ある日、担当の私が昼の検温に行った時のことです。私がベッドサイドに腰を下ろすと、患者さんは自分のベッドの周りのカーテンをシャーっと全部閉めてしまいました。私がびっくりしていると、患者さんがこっそりシュークリームを差し出しました。「あなた、いつも泣いているから、これでも食べて今日は元気を出して」。そう言って、息子さんが持ってきた差し入れを私に手渡してくれました。私はいたたまれない気持ちになってあふれる涙を止めることができず、部屋を飛び出してしまいました。

それから少しして、患者さんが亡くなった後、息子さんから「シュークリームを渡したら困らせてしまったと母から聞きましたよ」と笑って伝えてもらいました。
食べられない状態、末期がん、悪液質になっていたと思います。もしかしたら余命についても感じていたと思います。辛い中でも私を気遣ってくださった患者さんの優しさに、「ありがとう」を伝えることすらできなかった後悔がまだ私の中に残っています。

患者さんから何か頂いた時は丁寧にお断りするように言われていますよね。新人の私は患者さんの優しさに思わず泣いてしまい、逃げるように患者さんの元を離れてしまい、看護師としての対応もできていません。

「ありがとうございます。息子さんからの差し入れ、もったいないですよね。でも患者さんから何かいただくわけにいかないのですよ」と断った上で、「食べられなくて辛いですか？」と続ければ、今の身体症状をどのように感じているのかを確認することができたはずです。

「息子さん優しい方ですよね。こんな素敵な息子さん、どうやって育てたのですか？」と患者さんの歴史を振り返れば、価値観や大切にしていることを知る機会やコミュニケーションのきっかけにできたかもしれません。

看護師の経験を重ねた今、もしかしたら、患者さんの優しさを受け取ることが、「若い人を励ます」という彼女の社会的な役割を遂行することにつながったのかもしれないと考えることもできます。

当時の私に「逃げることなく、その場で泣けばいい。それも看護にできたかもしれない」と伝えたいです。そして「続けていけば泣かずにスイーツで夜勤の疲れを癒し、なんとかやれるようになるよ」とも。

リフレーミングコラムとは？

このコラムでは、看護職としてお仕事をしている皆様のなかで、心に残るエピソード、もっと上手く対処したかった悔しい経験、今だからクスッと笑える話を共有し、前向きに昇華したいと考えています。日々積み重なっている思いを同じ職種だからこそ分かち合える「看護」という共通言語でつづり、皆様にとって何かの助けになることを願っています。

～代筆ライター～

【西山妙子　(にしやまたえこ)】ナースLab認定ライター
総合病院の外科・脳外科病棟、ICU、大学病院手術室に勤務。結婚、子育て療育を経て訪問看護の道へ。病院の業務で疲弊しないでほしいと看護師の横のつながりや、新しい看護師のライフスタイルの提案を行うナースのためのオンラインサロン「ナースライフバランス研究室(ナースlab) 」を2017年10月より企画運営(現会員数約1000名以上)
マインヘルスケア株式会社代表取締役
Facebookにて「今日のおかずはなんだろうな」料理ライブ配信

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ナースライフバランス研究室（オンラインサロン）
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