今や医療現場のみならず、日常においても欠かす事が出来なくなった「マスク」。
店頭にもところ狭しと非常に多くの種類が並んでいます。
今回はそんなマスクについての基本的な知識や付け替えのタイミングについてお話しします。
1.ユニバーサルマスキング
2020年から現在に至る期間はこれまでの歴史で人類が最もマスクを着用した期間である事は間違いありません。 2020 年以前はマスクは「人に移さないもの」という認識が主で「防護性」については曖昧でした。
しかし、新型コロナウィルスの世界的流行によるマスクの使用増加によってその有効性が顕著にあらわれています。近年世界的なスタンダードとなりました「ユニバーサルマスキング」とは医療従事者、患者さんを問わず、全ての人のマスクの常用を表すものです。 CDC (アメリカ疾病予防管理センター)もマスクの効果を認め着用を推奨しています。
2.素材別特徴
現在、 主に使用されているマスクには素材的に3つの種類があります 。
■不織布マスク
繊維や糸を熱的、機械的、化学的作用によって絡み合わせシート状にした不織布を重ね合わせたもの。
粒子や細菌の捕集効率が高く、通気性にも優れることから最も使用されています。
■布マスク
繊維を織った布をマスクの形状にしたもの。一般的にしなやかで肌ざわりに優れるが縦糸と横糸で織るために隙間が多く微粒子や細菌の捕集効率は不織布より劣ります。
■ウレタンマスク
主にポリウレタンを発泡させた軟質ウレタンフォームを使用し、一般的に通気性や伸長性に優れるが微粒子や細菌の捕集効率は不織布より劣ります 。
3.サージカルマスクとは
CDC(アメリカ疾病予防管理センター)はサージカルマスクに3つの役割を求めています。
① 自分を患者さんの血液、体液から守る個人防護
② 患者さんを医療従事者が保菌している病原体から守る
③ 咳による飛散を防止する(咳エチケット)
フェイスマスクがこの3つの役割を果たす為に、米国ではFDAが指定するサージカルマスクの性能評価を満たしたものを「サージカルマスク」と規定しています。その試験方法はASTM(米国試験材料協会)の規定に基づきます。日本でも2021年にJIS規格が制定され、JIST9001医療用マスクがサージカルマスクと呼べます。ASTM、JISともにその試験方法や基準値に大きな差異はありません。(JISにはウィルス飛沫捕集効率が含まれます。)
4.N95マスクとは
米国労働安全衛生研究所(NIOSH)の定めた規格のうち、耐油性がなく0.3μm以下の試験粒子を95%以上捕集する規格をさします。もともと工業用の規格でしたが、現在は医療従事者の空気感染予防策としても用いられています。米国では呼吸保護器として使用されています。
N95の「N」はNotの頭文字で油に対する耐性が無いことを示しています。
「95」は0.3μmのエアロゾル化した塩化ナトリウムに対する捕集効率を示しています。
防塵マスクには各国それぞれ規定があり、同様の基準のものは、日本「DS2」欧州「FFP2」中国「KN95」韓国「KF94」等があげられます。
5.交換のタイミング(マスクの湿りに要注意!)
医療現場であれば、着用はスタンダードプリコーションに則ります。交換のタイミングは以下のとおりです。
① 患者さんの手術、治療後
② 多量の液体に曝露した後
その他のタイミングとしては「マスクが湿った時」には交換することが望ましいです。マスクの内側が湿るとウィッキング毛細管現象が起こり、水分が生地に吸い込まれることで生地を通過する空気の流れに対する抵抗が増加します。これによりマスクの周囲に沿って流れる空気の量が増えマスクと顔の間の密閉性が弱まります。
また、感染管理の原則である「持ち込まない」「拡げない」「持ち出さない」タイミングでの交換が求められます。外出から戻った時は外の汚染を室内に持ち込まないように速やかにマスクは廃棄するようにしましょう 。
6.マスクによる皮膚トラブルについて
マスクの常用によって肌荒れ等のトラブルが発生しています。主に3つのタイプが考えられます。
① 異物が皮膚に接触することによる摩擦、刺激によるもの。
特に乾燥する季節に多く見受けられます。不織布マスクは繊維を熱や機械力によってランダムにシートにしているので製品によっては毛羽立ちが見られます。肌に合うものを選択するか、立体構造で皮膚に接触面が少ないもの、または内側に毛羽立ちの少ない素材を挟む等によって解消される場合もあります。
② 蒸れによる細菌の増殖。
長時間マスクをしていると蒸れてきて湿潤環境が亢進されて細菌が増殖するのに適した環境となり、肌の状態が、増悪するケースがあります。リスクの少ない場所で換気をおこなったりこまめに付け替える事で改善する場合もあります。
③ 外した際の急激な湿度低下による乾燥
マスクによって湿度が保たれていた環境から、マスクを外したことにより一気に皮膚の水分が失われることにより肌荒れにつながる場合があります。マスクを外した際はスキンケアをしていただくと良いと思います。
正しいマスクの着用
マスクは出来る限りフィットさせ隙間を作らないように着用しなければ効果を発揮出来ません。フィット性が高く、自分の顔にあったサイズのものを選ぶことが重要です。また、マスクの外側は汚れています。触らないようにする事は勿論ですが、触れてしまった時は手指衛生を行いましょう。
まとめ
すっかり常態化したマスクの着用。この冬も新型コロナウィルスやインフルエンザの流行も予想され、まだまだ予断を許さない状況が続くと思います。最前線で戦う医療従事者の皆さまには感謝してもしきれません。どうかお身体を大切に日々の業務に勤しんで頂ければと思います。
ライタープロフィール
【石鞍信哉】
A.R.メディコム・インク・アジア・リミテッド(メディコムジャパン)学術部所属。
「Pride in Protection」をかかげる感染管理のグローバルカンパニーの社員として、日々製品の適正使用や正しい感染管理の啓発のためにミナー活動を行っている。趣味は昔はバイクや釣りなど。今は・・・ほぼ無趣味です。