外国で最先端の医療に携わり、活躍している海外看護師に憧れたことはありませんか?一度は海外で働いてみたい。そう思ってはいるものの行動に移すにはなかなか勇気がいりますよね。
英語はどの程度勉強して行った方がいいのだろう?やっぱり日本と海外では全然働き方が違うの?このような疑問を解消するため、実際にオーストラリアで看護師として働く3人の女性をゲストに迎えてオンラインで座談会を行いました。
今回取材した看護師さんのプロフィール
のぞみさん
シドニーの公立病院で血液内科勤務、大学院で勉強してクリニカルナーススペシャリスト(日本の認定看護師のような資格)として活躍し、現在育休中
あやみさん
シドニーの私立病院で手術室勤務。
やすかさん
クイーンズランド州の私立病院で手術室勤務
きっかけは留学やワーキングホリデー
お話を伺った3人は、ワーキングホリデーや学生時代の留学経験がきっかけで渡豪しました。オーストラリアにはいろいろな国の人が留学していて、日本とは違ったさまざまな文化に触れたことで海外に興味を持ったのだそうです。また、過ごしやすい気候や日本との時差が少ないこともオーストラリアが選ばれる理由です。中でもあやみさんは、ワーキングホリデー中に今のパートナーと出会い、渡豪して看護師として働くことにしたそうです。
また、オーストラリアは世界的に見てもかなり治安の良い国で知られています。しかし日本の治安の良さにはかないません。「おそらく財布や携帯を外出先に忘れても、戻ってくる確率が高い国は日本くらいではないでしょうか」とのぞみさんは言います。
オーストラリアで働くにあたり、英語に自信があったのかを尋ねてみました。すると、皆さん語学力は観光客レベルたったそうです。そのため渡豪する1年前くらいから英語の勉強や、語学学校に通うなどの対策をしました。しかし実際、医療現場でスムーズに話せるようになったのは現地で働きながら語学の勉強をしたことが大きいといいます。
「今はオンラインなど英語を勉強しやすい環境が整っているので、基礎の英語を日本で習得した上で、まずはワーキングホリデーで働いてみると今後のイメージがしやすいと思いますよ」とあやみさん。
語学力の目安でいうと、検定の一つであるIELTSのスコアが5.5以上あればTAFEという看護助手の資格が取得できる専門学校に入れます。これは、他の検定のスコアに換算するとTOEFL iBT46点以上、TOEIC600~700点以上に該当します。英語学習の指標にされてみてはいかがでしょうか。
まずは一度外に出て日本とは違う価値観に触れてみることで、視野が広がり、選択肢も広がりそうです。
看護師の専門性が高い
オーストラリアの求人は、手術室だけでも機械出し・外回り・麻酔科看護師・リカバリー看護師などそれぞれの分野での採用で、一般病棟では病棟単位で募集が行われています。
そのため、人事を看護部が行わないことから、部署移動がありません。日本では望まない部署移動の辞令が出ることもありますが、オーストラリアではシステム上そのようなことはないようです。移動したければ希望する科に再度応募をすることになります。このことから、看護師の専門性が高く、一つの分野のプロフェッショナルになりやすい環境であることが伺えます。
では、海外で看護師として働く上で日本の臨床経験は役立つのでしょうか。結論としては、医療英語の習得は必要ですが、言語をクリアすれば求められる看護師のスキルに大きな違いはないそうです。更に、何か一つの分野で長く勤めていると強みになります。
日本の手術室で12年の臨床経験があるやすかさんは、ベテラン看護師として手術室に配属され、1週間で自立、3ヶ月目でオンコール担当をするほど即戦力としてチームの一員になっています。
お給料面では、オーストラリアは基本給ではなく時給契約が一般的だそうです。手取りのお給料は単純比較では日本よりオーストラリアの方が高水準ですが、物価が高いため生活水準は日本で看護師として働いている時とあまり変わらないとのことでした。
また、フルタイムで無期限契約雇用の看護師でも昇給は8年目までで止まってしまいます。以降はプラスアルファで資格を取るなど次のステップに進んだ看護師のみ昇給となるため、意識の高い人はより専門性を追求する傾向にあるようです。
労働者の権利が守られているオーストラリア
オーストラリアでは残業がほとんどなく、時間外の勉強会や委員会、係の仕事も行いません。
なぜなら、それぞれの役割が明確になっており、仕事が細分化されているからです。例えば、教育係はオペ室業務を行わずに教育に専念します。そのため自分が担当する業務以外のことをすることがほとんどないのです。
また、手術室の人員も多すぎると感じるほど充実しているそうです。具体的には、直接介助と外回り看護師以外にも麻酔科看護師がいます。さらに、ボーイズやオーダリーなど日本で言う助手業務をする人たちが働いています。彼らが移送や体位固定、ベッドの配置を変える、清掃などの業務を請け負ってくれるので、看護師は自分の業務に専念できるのだそうです。
のぞみさんが驚いたのは、現地の看護師の時間感覚です。日本では始業前に病棟に来て、情報収集をしたり準備をしたりしますよね。オーストラリアでは始業時間ぴったりに出勤してくるのは当たり前、中には5分遅れでコーヒー片手に出勤してくる人もいるそうです。もし日本の病院で同じ光景を目にしたら、開いた口が塞がらない看護師たちの姿が容易に想像できてしまいます。
医師と看護師、他職種との距離が近い
医師や看護師が人前で怒る文化がなく、新人教育でも上司が声を荒げて怒ることはほとんどないそうです。「怒ることはプロフェッショナルの仕事ではない」という風潮だと話すやすかさん。意見を伝える時は落ち着いて論理的に伝える傾向があるのだと、職場の違う3人ともが話されていました。
一方、あやみさんが勤める病院には高圧的な医師もいるようです。しかし目に余る場合は病院に出禁になる、「看護師を付けないわよ」と現地のスタッフから言われてしまうなど傲慢な医師の態度がまかり通る環境ではなさそうです。これは日本とは違い、医師は病院に直接雇用されるのではなく、病院と契約をして手術室を使わせてもらうというシステムによる背景があります。(これは私立病院のケースで、公立病院か、専門医かどうかで雇用形態は異なるそうです)
また、オーストラリアの病院では医師と看護師、他職種が互いを下の名前で呼び合い、カジュアルに意見交換ができる雰囲気があるそうです。これは、それぞれの職種をプロフェッショナルとしてお互いに認め合っているからこその関係だと皆さん感じています。
まとめ
やはり国が違えば文化や価値観も違います。今回3人にお話を伺って、日本とは違ったオーストラリアの看護師事情を知ることができました。
特に印象的だった、コーヒーを片手に5分遅刻してくる看護師。日本ではなかなか考えられない光景ですが、時間に対する考え方や労働者の権利が守られている働き方は、海外特有の良さであると感じます。一方で日本人の勤勉さを改めて実感したエピソードでもありました。
オーストラリアの病院は看護の専門性を高めやすい環境のようです。スキルアップを考えている方や、日本とは違った価値観で働いてみたい方は、移住を視野に留学を検討されてはいかがでしょうか。実際に看護師としての海外移住を考えた場合、まずは学生ビザや観光ビザで語学や海外での生活を経験し、次にワーキングホリデーでしっかり働きながら現地でコネクションを作っていくのも一つの方法だと、やすかさんが教えてくれました。しかしワーキングホリデー制度は年齢の制限や1カ国につき1度しか申請できないなど制約があるため、対象外の方は学生ビザや観光ビザなどご自身の状況にあったビザの取得を検討してみてください。
ライタープロフィール
【市原 歩】ナースLab認定ライター
現役看護師16年目。整形外科病棟勤務。 20~30代前半まで副業でDJとして都内のCLUBで活動していた。 2021年~WEBライターとして医療情報メディアでのコラム、美容系の施術解説記事などを 執筆している
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