知っていましたか? ホントの排痰ケア

ナースライター 中澤由紀子
ナースライター 中澤由紀子
知っていましたか? ホントの排痰ケア

みなさんは、患者さんの排痰ケアで困った経験はありませんか? 排痰ケアと言えば、吸引と思われる方もいらっしゃいますが、吸引は気道確保の手技です。患者さんの状態に合わせた排痰ケアを行ったうえで、吸引を行うことが望ましいとされています。安全で安楽な排痰ケアを行うことで合併症を防ぐことができます。排痰ケアの基本と手技のポイントについて紹介します。



1. 痰ができる仕組み

気道内に入った異物(唾液、白血球、脱落した上皮細胞、微生物、粉塵など)を取り込んだ気道粘膜は、これらを気道の外へ排出しようとします。気道クリアランスという仕組みが働き、痰が作られます。

気道クリアランスの仕組みとは、
①異物の刺激により気道粘液が増加
②異物を取り込み痰を作り出す
③繊毛運動により末梢気道から中枢気道(口側)へ痰を輸送する
④咳嗽や嚥下などにより痰を気道の外へ喀出
の4つがあります。



2.貯留による影響

喀出困難な量の痰や粘調度の高い痰の場合、息切れや呼吸困難などの症状が出現しやすくなります。痰の貯留が著明になると、窒息、肺炎、無気肺、ガス交換障害、気道抵抗の上昇など様々な合併症を起こすリスクが高くなります。痰の量や性状、色調を継時的に観察することは、呼吸器系(肺や気管支など)の状態を把握するために有効です。



表1 痰の性状

痰の性状

3.排痰ケアの3原則

①加湿

水分量が低下すると、痰は粘性を増し、気道に停滞しやすくなります。さらに繊毛運動が阻害され、痰の移動が困難となります。水分量が減少した状態の痰は再び柔らかくすることが難しくなるため、効果的な排痰を促すには、痰に適度な水分を維持することが必要となります。


②重力

痰には自動運動の能力がないため、重力の影響を受けやすいです。一般的には、自力で立位・坐位・歩行などが出来る場合、痰は動作に従って重力の影響を受けるため、様々な方向に移動します。体位変換や早期離床により、身体を動かすことが痰の貯留防止につながります。


③呼気量と呼気速度

末梢気道からの痰の移動には気流が大きく関与します。そのため痰を中枢気道に移動させるためには、critical opening pressure を利用した末梢へのエアーエントリーの改善と呼気流量の増加が重要です。



4.排痰ケアの手技

①体位ドレナージ

痰が貯留した部位が上になるような体位にし、重力によって末梢の痰を中枢に移動させ、排出しやすくなります。寝たきりの患者さんの場合、背中側に痰が重力で貯留しやすいです。腹臥位または前傾側臥位が有効ですが、患者さんによってはこの姿勢により苦痛が生じやすいです。腹臥位や前傾側臥位による苦痛があると、呼吸運動に影響しない程度の80~45度の側臥位などで代用することもあります。枕やバスタオルなどで安楽な体位になるよう工夫します。看護必要度のA項目の呼吸ケアに該当します。


②徒手的呼吸介助

患者さんの胸に手を当て、呼気に合わせて胸郭を生理的な運動方向に圧迫し、吸気時には圧迫を解放することを繰り返し行います。あくまで換気改善手技であり、スクイージングと同様、熟練したスタッフの指導の下で行い、不適切な手技による合併症(肋骨骨折、低酸素血症、疼痛、循環動態異常など)に注意します。


③咳嗽介助

咳払いをしても痰が取れないと感じる時には、胸の上側、痰がたまっていると感じられる下側あたりに手のひらを押し当てて、咳をするタイミングで圧迫します。圧迫することで、気道の空気の流れが速くなって痰を排出しやすくなります。咳嗽法やハフィングと組み合わせると効果的です。患者さんにセルフケアとして指導することも有用です。


④咳嗽法、ハフィング

咳嗽法とは、十分な吸気をした後、「ゴホン」と閉鎖した声門を急激に開放することで生じる強い呼出で、気道クリアランスでは最終的に中枢気道から分泌物などを排出するために用いられます。
ハフィングとは、「ハッ、ハッ」と口と声門を開いたまま強制的に呼出を行います。抹消気道の分泌物の移動を目的として行う場合は、低・中肺気量から持続的な呼出で残気量位まで行います。中枢気道からの分泌物の移動を目的とする場合は高肺量位(最大吸気位)から速く強く行います。


⑤アクティブサイクル呼吸法(ACBT)

安静呼吸の呼吸コントロール(BC)、深呼吸の胸部拡張練習(TEE)、ハフィングや咳嗽法の強制呼出手技のサイクル(FET)から構成されます。


アクティブサイクル呼吸法(ACBT)


まとめ

いかがでしたか?排痰ケアの基本と手技のポイントについて紹介しました。排痰の3原則を活用した排痰ケアを用いて、安全で安楽なケアを行いましょう。呼吸ケアに詳しい看護師でもいいですし、呼吸ケアに関わる理学療法士などに相談しながら、ぜひ実践してみてください。



参考文献

呼吸リハビリテーションマニュアル─患者教育の考え方と実践
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会呼吸リハビリテーション委員会編他
照林社

呼吸リハビリテーションマニュアル―運動療法
日本呼吸ケアリハビリテーション学会呼吸リハビリテーション委員会ワーキンググループ
編集他
照林社



ライタープロフィール

【中澤由紀子】
子どもと福井県に移住し、呼吸器疾患看護認定看護師を取得。看護師特定行為研修修了。急性期病棟勤務や医療的ケア研修講師などを経験。
得意なことは寝ること、苦手なことは片づけと料理。


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