ある日突然睡眠薬を飲みたくなった
「ある日突然、睡眠薬を山盛り飲みたくなった」そんな体験を教えてくださった方がいらっしゃいます。私はうつ病予防を広めている関係で、そうした経験を教えてくださる方が多いのですが、彼女はそのうちの一人です。彼女のうつ病を予防するにはどうしたらよかったのか?事例を元にうつ病予防について考えてみましょう。
1.原因は職場のモラルハラスメント
彼女が教えてくれました。
「ある日突然、睡眠薬を山盛り飲みたい気持ちになりました。信号待ちの時に車に突っ込んでもらいたい、そんな気持ちを感じました。仕事を休職しましたが、同僚にとても迷惑をかけているという罪悪感のためにしばらくはゆっくり休めませんでした。何かを決めることがとても負担で、宅配ピザは何が良いか家族に聞かれただけで「何も考えたくない!」と泣きわめいた記憶があります。気分転換した方がいいと周りからは言われましたが、とてもそんなエネルギーはありませんでした。頑張って気分転換のために外出しても、帰ってくると寝返りも打てないほど倒れ込んでしまいます。そのようなうつ病になってしまった原因が職場のモラルハラスメントでした。」
彼女は職場でモラルハラスメントを受けていました。モラルハラスメントとは「職場での価値観や倫理観の不一致による、思考や気持ちに対する攻撃的な言動や行動」を指します。
看護業界では以下のようなものが当てはまります。
(1)業務量が膨大な中で、多忙な看護師に対して上司からの無茶な要求や責め立て。
(2)職場での上司や同僚からの無視や排斥。
(3)職場環境が悪い中で、上司からの罵声や暴言。
(4)職務上のミスを犯した看護師に対して、上司からの恫喝や威嚇。
(5)職場での個人攻撃や中傷。
(6)看護師が患者の命を守るために自主的に行った行動に対して、上司からの圧力や妨害。
(7)上司からのセクシャルハラスメント。
(8)職場内での人事評価や昇進に関する不公平な扱い。
(9)職場の人間関係での派閥やいじめ。
(10)患者や家族からのクレームや暴力行為に対して、上司の支援が不十分であることによる看護師のストレスや不安。
「あるある!」そう感じた方も多いのではないでしょうか?
このような状況に身を置くと孤独になります。また周りも、支援をしようとすると同じような立場になってしまうのではないか、と手を差し伸べにくい状況になるので孤立してしまいます。
看護は個人プレーではなくチームワークが必要な仕事ですから、日々の業務を行うのに神経を使いながら勤務することになります。
こうした状況は精神的な緊張状態を生み、自律神経の交感神経を優位にしてしまいます。交感神経が優位な状態は自律神経のバランスが崩れた状態です。長期間続くことによって自律神経失調状態を経てうつ病を発症しやすくなります。うつ病は自覚がないまま重症化する疾患ですから、突然その衝動が起きたのでしょう。
2.モラルハラスメントのない職場づくり
彼女のうつ病の原因はモラルハラスメントでした。予防策として、以下のような取り組みが効果があります。
(1)経営陣からモラルハラスメントに対する明確なメッセージを発信する。
(2)ストレスケアの充実など、職員のメンタルサポート体制の整備を行う。
(3)職場内のコミュニケーションを改善するための研修を行う。
皆さんの職場ではどのような取り組みがされているでしょうか。職場で特に対策がなされていない場合でも、(2)の「ストレスケア」は、自身で取り組めます。
3.「ストレスケア」を身につけよう
「あの人と同じ勤務は辛い」
そんな日がある方は、職場改善のために上司や相談窓口にアプローチしつつ、「ストレスケア」でまずはご自身を守ってください。
私が調査した「ストレスケア」で効果があったものの一つに呼吸法があります。「3秒吸って1秒止めて6秒吐く」この呼吸法を10分行うと自律神経が整います。
「明日はあの人と日勤が一緒……」そんな前日の夜、お試しください。
まとめ
彼女は現在、発症前の状態に戻りました。戻ったからこそ、多くの方に知ってもらいたいと願って体験を寄せてくれました。
「モラルハラスメントをなくしたい」と思っても、職場全体で対策を取る必要があり個人ではなかなか難しいと思います。もちろん改善のために何かしら行動することは大切ですが、まず一番大事なことは、自分の身を守ることです。ストレス要因から生じる自律神経の変調を予防するためのケアの方法を身につけることを、おすすめします。
ライタープロフィール
【時任春江】
総合病院で看護師として25年間勤務。
離職後、心拍変動解析によるストレス測定を取り入れた研修を行うようになった。2016年一般社団法人設立し、一般企業、医師会等からの研修や講演を受ける。「うつ病にさせないためのアドバイザー」を640人以上育成。また、看護師の市民活動団体One Nurseを運営している。
一般社団法人日本疲労メンテナンス協会ホームページ
市民活動団体One Nurseホームページ