I A Dって何?褥瘡と何が違うの?
褥瘡だと思って、皮膚・排泄ケア認定看護師にコンサルテーションしたら「I A D」と指導された経験はありませんか?
この記事では、I A Dに関わる三つの「なぜ?」に迫りながら、看護ケアに役立つ知識とヒントを紹介します。I A Dは知っているけど曖昧という方、全く初耳という方へ、I A Dの原因となりたち、予防のためのスキンケア方法を分かりやすく解説します。
1. なぜI A Dを発症してしまうのか?
IAD(Incontinence-associated Dermatitis)とは、Incontinence=(排泄物の)失禁が、Associated=関連した、Dermatitis=皮膚炎であり、それぞれの頭文字でI A Dと表現されています。定義は、“尿または便(あるいは両方)が皮膚に接触することにより生じる皮膚炎である。アレルギー性接触皮膚炎、物理化学皮膚障害、皮膚表在性真菌感染症を包括する。”1) です。
おむつかぶれの発赤やびらん、潰瘍、かゆみ、痛みなどの症状だけでなくカンジダ皮膚炎に代表される表在性真菌感染症も包括しています。
IADは、二つの条件が揃うと発生リスクが高まります。
一つ目は、「皮膚のバリア機能の低下」です。
排泄物によりおむつ内の皮膚が浸軟し、皮膚の組織結合は緩みます。そのため耐久性は低下し組織損傷や細菌が侵入し皮膚炎を起こしやすくなります。大雨で土砂崩れしそうな、緩んだ地盤と同じです。
二つ目は、「排泄物による化学的刺激」です。
皮膚の表面に位置する皮脂膜が、バリア機能を司っています。「お肌は弱酸性」といわれるのは、皮脂膜のpHが5~5.5と弱酸性のためです。便のpHは6.9~7.2と高く、皮膚にとってはアルカリ性の化学的刺激となります。さらに水様便になるほど腸液と消化酵素が混入するため刺激性が高くなります。一方、尿はpH 6.0前後で弱酸性ですが、時間の経過とともに細菌によってアンモニアが生成され尿臭も強くなりアルカリ化します。
以上より、「失禁関連皮膚炎」は、排泄物によっておむつ内の皮膚が浸軟し、そこに排泄物の細菌繁殖とアルカリ刺激が加わるため、発生するのです。
2. なぜIADと褥瘡を区別するのか?
I A Dも臀部や仙骨部の褥瘡も、おむつ内の皮膚に発生します。発赤やびらん、潰瘍などを呈し、見分ける必要性を感じていない方も多いのではないでしょうか。しかし、I A Dと褥瘡を見分けられると治癒までの近道ができます。見分けられないと遠回りや再発を繰り返すといった、負のサイクルに陥ってしまいます。
ここでは、I A Dと褥瘡の見分け方を述べていきます。
さっそくですが、発生している部位、健常皮膚との境界、潰瘍の深さの三点を観察しましょう。
IADの好発部位は、排泄物が持続的に接触している陰部や陰嚢後面、肛門周囲とおむつギャザーの刺激や皮膚の密着で蒸れやすい両鼠径部です。健常皮膚との境界は不明瞭で段差の無い真皮レベルの潰瘍やびらんです。加えて、びらんの辺縁に白色の鱗屑を生じる表在性真菌感染症もI A Dです。抗菌薬やステロイド薬の長期使用など免疫機能低下している方には、特に観察と十分な予防ケアをおこないましょう。
一方、褥瘡の好発部位は、圧迫や摩擦・ずれが発生要因のため、尾骨部や仙骨部、坐骨結節部など体圧が集中する部位です。縁取りしたように健常皮膚との境界が明らかで、ポケット形成や皮下組織以下の深い損傷になることもあります。仙骨部によく見られる円形の潰瘍は、仰臥位の時間が長いため、限局的に圧迫が加わっていた状況を意味します。
このように、I A Dと褥瘡は似て非なるものです。局所の処置方法はそれほど変わりませんが、発生原因が異なります。I A Dは失禁が関連しており、褥瘡は圧迫や摩擦ずれが原因です。それぞれの原因にアプローチした根本的なケアをすることで治癒への近道となります。
そのために、発見時に見分けられるようになっておきましょう。
3. なぜ洗浄剤は1回/日なのか?
おむつ内皮膚の清潔を保つケアは、I A Dの予防に繋がります。とはいえ、こびり付いた便のゴシゴシ洗いや、洗浄剤を頻回に使用するのは、間違った清潔ケアです。
ここからは、IAD予防のために重要な「スキンケア」に焦点を当てて述べていきます。
スキンケアの基本は、洗浄、保湿・保護です。
1)洗浄:
弱酸性の泡洗浄剤で1回/日擦らずに洗いましょう。
おむつ内皮膚は、“微温湯と洗浄剤を使用することでIAD保有者が存在する確率が優位に減少する2)”は、一般常識になってきました。しかし、弱酸性の泡洗浄剤でもゴシゴシ擦ったり、頻回に使用することで、バリア機能が低下してしまいます。洗浄剤の界面活性剤の洗浄力で、皮脂の脂成分が溶けてしまうのです。
自身の洗顔後に顔の皮膚が突っ張った状態を経験したことがあるでしょうか?その後、保湿剤を付けなくても、肌のツッパリ感がなくなるのは、徐々に皮脂膜が再生されている証拠です。
一方で、高齢者や寝たきりの方は、代謝が低下しているため皮脂膜の再生は遅くなります。洗浄剤の使用は1回/日程度にとどめ、微温湯のみで洗い流すようにしましょう。
さらに、ケア提供者の洗浄技術も重要です。皮膚にこびり付いた便を取り除くためにゴシゴシ擦っていませんか?摩擦刺激で発赤やびらんを生じてしまっては意味がありません。その際は、オリーブオイルやベビーオイルなどでクレンジングした後、洗浄剤を使用するとスムーズに優しく除去できます。皮膚に優しい商品を使用しても、ゴシゴシ擦ってしまったら本末転倒です。
2)保湿・保護:
撥水皮膜効果の高いスキンケア商品を選びおむつ交換ごとに塗りましょう。
皮膚のバリア機能を維持するためには、角質層に適切な水分が保持されていることが重要です。角質水分量が多すぎる浸軟や少なすぎる乾燥肌ではバリア機能は発揮されません。適切な水分量を保持しつつも、浸軟予防のため撥水を目的とした保湿・保護剤は必需品です。
最も手に入れやすい市販商品は、“サニーナ”(花王(株))や“白色ワセリン”などがあります。これらをおむつ交換ごとに塗ると、皮膚の上に防水シートをまとったように排泄物から皮膚を守り、便のこびり付きも予防できます。
まとめ
今回は、I A Dに関連する三つの「なぜ?」について述べました。
I A Dは、失禁に関連した皮膚炎のため、おむつかぶれも、表在性真菌感染症も包括します。しかし、褥瘡とは区別しましょう。理由は、I A Dは排泄物が皮膚に接触することで発生しますが、褥瘡は圧迫や摩擦・ずれが原因だからです。この原因ごとに対策すれば治癒までの近道ですが、知らないと再発を繰り返します。日頃当たり前におこなっているスキンケア方法についても見直していただける一助になれば嬉しいです。また、お会いしましょう。
引用参考文献:
1)一般社団法人 日本創傷・オストミー・失禁管理学会 : 「IADベストプラクティス」. 照林社. (2019).P6
2)市川佳映:介護療養型医療施設におけるIADの有病率及び看護ケア、組織体制との関連,日本創傷・オストミー・失禁管理学会誌,VOL19.No.3.2015 P319~326
ライタープロフィール
【浦田克美】
看護師経験25年。皮膚・排泄ケア認定看護師、特定看護師(創傷管理分野)、
おむつフィッターの資格を取得。現在 東葛クリニック病院勤務。
東葛クリニック病院の褥瘡・排便サポートチーム回診を見学しませんか?エコーで褥瘡や便秘のアセスメントをしています。エコーを学びたい方、病院と回診の雰囲気を知りたい方、Instagramからご連絡ください。(無料)Instagram「エコーナースClub」で排泄情報を発信しています。