患者の発熱を先輩に報告した時、「Aさん、体温が37.8℃に上昇していましたので、ひとまずクーリングしました」と伝えると、「クーリング?その根拠は?」と、ギラッとした目で先輩から正解を求められたことはありませんか?
発熱しているから「クーリング」はついあまり考えずにしてしまいがち。しかし、クーリングの必要性や効果には、様々な意見や根拠が存在します。特に、敗血症性ショックの患者などの重症患者の体温管理は生命予後にも関係するので注意が必要です。
本コラムでは、科学的根拠を基に、クーリングの有効性や安全性を考察していきたいと思います。
発熱による生体への負担
「発熱」と言うと、多くの人が思い浮かべるのは風邪やインフルエンザのような感染症ですが、それだけではありません。ウィルスや細菌による感染以外にも、アレルギー反応や悪性腫瘍、うつ熱など、様々な原因が考えられます。
一般に、体温が37.5℃以上であれば発熱とされていますが、この温度に達しなくても、倦怠感や頭痛などの症状が現れた場合は注意が必要です。発熱自体は体の防御反応の一環で、微生物の増殖を抑え、免疫機能を活性化させます。しかしこの反応には、体力の消耗や、水分、塩分の喪失といった代償が伴います。例えば、水分は通常、汗や不感蒸泄により約15mL/kg/日喪失され、体温が37℃から1℃上昇するごとに、喪失する水分量は100から150mL増加すると言われています。
これらの影響により、発熱は倦怠感、頭痛、発汗などの不快な症状を引き起こし、これらの症状は生体にとってストレスの原因である刺激「ストレッサー」となります。特に重症患者の場合、これらのストレッサーが二次的な臓器障害、いわゆる「セカンドアタック」を引き起こす可能性があると言われています。セカンドアタックは重症患者の生命予後を著しく悪化させる要因となり得るのです。
クーリングは「有害」なのか
発熱患者にクーリングを施すと、一見すると体温を下げる効果が期待されますが、実際のところはどうでしょうか?私たちの体温は、通常、セットポイントに基づいて調整されます。これは看護学生時代に学習した内容ですね。セットポイントが上昇すると、体は必死に体温を保とうと働くため、この状態ではクーリングによる解熱効果は期待できません。
・血管の収縮とシバリング
多くのケースで、クーリングは寒冷反応を引き起こし、結果として血管の収縮やシバリングが生じます。血管の収縮は熱の放散を阻害し、シバリングは体内での熱産生を引き起こすため、これらの反応は解熱を妨げます。シバリングとは、寒さに反応して体が震えることで、これにより体内のエネルギー消費と酸素需要が増大します。
・患者への負担
このように、クーリングは体温を下げるどころか、患者にとっては血圧の上昇やエネルギー消費と酸素需要の増加など、さまざまな負担をもたらす可能性があります。解熱の効果を期待してクーリングを行なっても、結果として患者の負担が増大するというのは、本末転倒と言えるでしょう。
特に、敗血症性ショックの患者においては、発熱を低い範囲(36.0~37.5°C)でコントロールすることは、患者に対して組織の灌流を悪化させる可能性があり、有害である可能性が示唆されています。
クーリングが「正解」とされる場合
クーリングは、患者にとって常に有害であるわけではありません。場合によっては、クーリングが適切な選択となることがあります。
・クーリングの適切な状況
それでは、クーリングが効果的である状況とは何でしょうか?それは、うつ熱など、寒冷反応を引き起こさない発熱、例えば、外的環境因子による高熱(うつ熱)の場合や、高齢による体温調節機能の低下、全身麻酔などにより体温調整中枢が抑制されている状態です。人工呼吸器管理などで、鎮静下にある患者もこれに該当します。
敗血症性ショック患者を対象とした対照試験では、発熱制御のためのクーリングが昇圧剤の必要性を減らし、早期生存を改善する可能性があることが示唆されています。前述した内容と真逆の結果ですが、体温を下げすぎないということが重要なポイントです。
・クーリングのメリット
このような状態でクーリングを行った場合、心拍数の低下や酸素消費量の低下、爽快感の得られやすさ、疼痛の緩和など、多くのメリットが考えられます。特に小児領域では、これらの効果が顕著であることが知られています。また、重症患者のセカンドアタックの予防にもつながります。
まとめ
クーリングの解熱効果は、事実上、非常に限定的です。体温を37.5℃以下に下げすぎることによるデメリットにも注意が必要です。しかし、発熱の原因や状況に応じて、クーリングは安楽や疼痛緩和の効果をもたらすばかりでなく、重症患者の場合、二次的な臓器障害を予防する効果も期待できます。
結論として、クーリングの効果は患者の具体的な状態と発熱の原因に依存します。患者の状態を正確にアセスメントし、適切なケアを提供することで、効果的なクーリングが可能となり、患者の快適性や安全性が向上するでしょう。
参考文献
1)F Schortgen, Fever in sepsis,Minerva Anestesiol. 2012 Nov;78(11):1254-64. Epub 2012 Jul 6.
2)Frédérique Schortgen , Karine Clabault, et.al, Fever control using external cooling in septic shock: a randomized controlled trial:Am J Respir Crit Care Med. 2012 May 15;185(10):1088-95. doi: 10.1164/rccm.201110-1820OC. Epub 2012 Feb 23.
3)Yan-Li Yang , Da-Wei Liu, et,all, Body temperature control in patients with refractory septic shock: too much may be harmful, Chin Med J (Engl). 2013;126(10):1809-13
ライタープロフィール
【加瀬美郷】
急性・重症患者看護専門看護師で、急性期医療のフィールドと大学院での非常勤講師を経験。2022年には、予防医療推進事業の㈱メディカルヘルスオンラインを設立し、代表取締役に就任。オンライン看護を軸に、労働者の健康増進や、女性・障害者の雇用促進、企業向け講師など、多岐に渡り活動。地元、九十九里ホーム病院での臨床現場にも時折携わっている。
(株)メディカルヘルスオンライン