虐待防止!精神科医療の課題!

精神科認定看護師 生和佐梛
精神科認定看護師 生和佐梛
虐待防止!精神科医療の課題!

虐待は、あってはならないことです。しかし、近年、精神科病院で虐待事件が続き、社会的な問題となりました。そこで、令和6年4月より虐待防止対策をすすめるために精神保健福祉法の改正が行われました。虐待は保育園や介護施設でも事件となり、精神科病院だけの問題ではありません。法の改正に伴い、今一度、患者さんの権利擁護と虐待防止について認識を高めてみませんか。



虐待防止の第一歩 -看護職の倫理を意識し、患者さんの安全と人権を守ろう-

こころの病により幻聴や幻覚などの症状が生じ、自傷他害など患者の行動には危険を伴います。自らの治療を阻む行動にも至ります。

精神科では、法のもと安全確保や治療のために拘束・隔離など患者の自由を制限する介入があります。時に暴れる患者さんには医療従事者を守るためにも数人で介入し、力ずくで対応することもあります。治療という正当な理由が人権を侵害する行為であるという認識を低くするのです。力ずくで対応することに慣れてしまっているような職場風土、人権侵害と感じても言えない雰囲気、鍵のかかった閉鎖的な空間、妄想などの病状によって患者さんの訴えに信憑性がないと決めつける、このようなことが虐待を助長するのです。

精神科だからこそ人権侵害に触れる行為が多いことを認識しなければなりません。常日頃から看護職の倫理綱領を確認し、患者さんにとっての利益を最優先に考え、安全と人権を守る看護を提供しましょう。



早期発見が大事!

精神保健福祉法の改正は、2点あります。
1点目は、精神科病院に虐待防止の措置が義務化されます。虐待防止の研修・啓発活動・相談体制の整備をすることが求められます。

2点目は、虐待の発見者に都道府県への通報が義務化されます。都道府県は、通報により立入検査を行うことができます。虐待が継続されず深刻とならないよう、一人一人が虐待防止への認識を高め、早期発見することが重要です。



虐待と疑う視点を養おう!虐待の5つの類型を知り、人権を侵害していないか問うてみましょう

虐待は、
・身体的
・性的
・心理的
・ネグレクト(放棄・放置)
・経済的
の5つの類型があります。

身体的虐待は、外傷が生じるなどの暴力をすることや正当な理由がなく身体を拘束することです。無理やり口へ食べ物を入れることや意図的に行きたい方向を阻むことも含まれます。

性的虐待は、わいせつな行為をしたり、させたりすることです。卑猥な画像を見せたり言ったりすることも性的虐待となります。

心理的虐待は、暴言や著しく拒絶的な対応、差別的な言動など心的外傷を与える言動をすることです。患者さんの前で人に怒鳴ること、悪口や誹謗中傷をすること、仲間外れにすること、成人に「~ちゃん」と子どものような呼称で呼ぶことなどがあげられます。

ネグレクトとは、患者さんを衰弱させるような減食や長時間の放置をすることです。汚れた部屋や衣服のままで放置すること、患者さんが暴力を受けていても見過ごすこと、食事や水分を提供しないことなどがあげられます。

経済的虐待は、日常生活に必要な金銭を使わせないこと、本人の同意なしに財産を処分・運用することなどです。

「自分や大切な人が同じことをされたらどう感じるのか」と自分に問いながら、人権侵害リスクを確認し評価しましょう。



看護師自身のこころ・からだの健康度を高める

精神科看護では、患者さんから暴力・暴言・治療への抵抗・自殺未遂や既遂などに遭遇することがあります。病状により現実検討能力が失われている場合は、症状を改善するために患者さんの意志に沿えない治療や看護もしなければなりません。

また、精神科病院は看護師数の基準が低く設定され、さらに患者さんの高齢化がすすみ、業務量も多くなっています。看護師自身もストレスに曝されているのです。ストレスが蓄積され、イライラや感情疲労、眠れない、バーンアウトによる抑うつや自信喪失、自分や患者さんなど他者に攻撃的になるというような普段の自分とは違う行動、やりがいの欠如などが生じ、職場に不適応となる状態にまでなりかねません。

まず、看護師自身がストレスに早く気づいて対処することが必要です。音楽を聴くなど自分の好きな方法でリラックスをする、運動をして気分を発散する、アンガーマネジメントのスキルを習得して、看護師自身のこころ・からだを守りましょう。


看護師自身のこころ・からだの健康度を高める


虐待を見過ごす職場環境にしない

虐待に気付き、止めたいと思っても声をあげられないことがあります。
大多数の人が似たような行為をしている、周りの人が言わないから言わない、チーム内で権威のある人が虐待をしているために怖くて言えないなど職場内の人間関係を保ちたいために言えなくなるのです。

虐待を防止するには、チームでお互いの価値観や意見を受け入れ、患者さんにとって良い治療と看護について話し合える環境が必要です。同じ部署で長くならないよう院内の人員配置を流動的にし、院外の人からの点検をいれ、組織が閉鎖的とならない取り組みもしましょう。



まとめ

人の役に立ちたい

人の役に立ちたいと願って就いた職業、本当は虐待をしたくないのです。虐待防止には看護師自身のストレス対処能力と職場環境の改善が必要です。本記事が対人援助職で尽力されている方々にお役に立てれば幸いです。



【参考文献】
1)日本精神保健看護学会.(2024,2月1日)
みんなで学ぼう 精神科医療現場の虐待防止 動画.(2024年5月3日)
2)日本精神科看護協会.(2023年12月1日)
精神科病院における障害者虐待防止の手引き.



~ライタープロフィール~

【生和佐梛】
精神科認定看護師・キャリアコンサルタント・公認心理師・産業カウンセラー・リフレクソロジーの資格を取得。メンタルヘルスの不調により休職した方への復職を支援しています。


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