看護師にとって手荒れは職業病とも言えるほど身近な悩みです。患者さんと直に接触する機会が多く、頻繁な手指衛生(手洗い・手指消毒)は欠かせません。特に冬場は、寒さや乾燥など、過酷な状況にさらされることも重なるため、手荒れを加速させます。
日常的なハンドケアを実施せずに手指衛生を繰り返すことは、皮膚のバリア機能を低下させる一因となります。皮膚の特徴やハンドクリームの特性を考えない自己流のハンドケアは要注意です。特に間違っているケアは手荒れの回復を遅らせる可能性があります。
今回は「ハンドケアの重要性」「皮膚の解剖」「手荒れのメカニズム」「科学的根拠に基づいた具体的なケア方法」について解説します。
1.なぜハンドケアが重要なのか?
ハンドケアは、単なる美容ではなく、健康維持に不可欠な行為です。
私たちの皮膚は、外部環境からのバリア機能を有しています。特に手は、日常生活の中で最も多く外部の刺激を受ける部位であり、頻繁な手洗い・消毒、乾燥した空気、温度変化などさまざまな刺激から身体を守っています。そのため、皮膚に傷があると、本来のバリア機能が果たせなくなります。
・自身の感染予防:手荒れは、皮膚のバリア機能の低下を意味し、細菌やウイルスによる感染のリスクを高めます。
・患者さんへの感染予防:自分の手が汚染されていると、患者さんに感染症を伝播させてしまう可能性があります。
・業務効率の向上:手荒れによる痛みや痒みは、業務への集中力を妨げ、効率を低下させる可能性があります。
・精神的な健康:美しく健康な手は自信につながり、精神的な健康にも良い影響を与えます。
2.皮膚の解剖(構造と機能)
皮膚は、表皮、真皮、皮下組織の3つの層から構成されています。
ハンドケアは、皮膚の構造と機能を理解し、そのメカニズムに基づいたケアすることが手荒れ予防・早期解決のポイントです。
・表皮:最も外側の層で、角質層・顆粒層・有棘層・基底層の4層からなります。角質層は、死んだ細胞が重なり合ってできた層で、外部からの刺激や水分蒸発を防ぐ役割を果たしています。
・真皮:表皮の下にあり、コラーゲンやエラスチンなどのタンパク質から構成されています。弾力性や柔軟性を与え、血管や神経、汗腺などを含んでいます。
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・皮下組織:真皮の下にあり、脂肪細胞が豊富に含まれています。保温効果や衝撃吸収の役割を有しています。
3.手荒れのメカニズム
1. 手荒れの症状
皮膚のバリア機能は、角質層の水分とセラミドなどの脂質成分によって維持されています。これらの成分が減少すると、外部からの刺激を受け、炎症が起こりやすくなるのです。
初期症状として、乾燥・赤み・痒みなどがあります。これらの症状が悪化すると、ひび割れ・水疱・湿疹・痛み・腫れなどの症状に移行するのです。
2.手荒れの原因や特徴
手荒れの主な原因は「乾燥」「刺激」「アレルギー」の3つです。
・乾燥:頻繁な手洗いや消毒により皮脂が流れ、乾燥やひび割れ、痒みが発生します。お湯での手洗いも乾燥を招きます。お湯を使うことで油分を落としやすくしてしまいます。手洗いには体温より低いぬるま湯程度が適切です。またふやけた皮膚は水分が蒸発しやすく、細菌の繁殖やバリア機能が破綻している状態といえるでしょう。長時間手袋を使用することでふやけた皮膚も乾燥を助長するので注意が必要です。
・刺激:乾燥によるバリア機能の低下に、手指衛生剤や洗浄剤など外部刺激が加わると赤みや痒みが生じます。ペーパータオルの擦り拭きは刺激になるので、手洗い後は押し拭きを心がけましょう。
・アレルギー:ゴム手袋や消毒液によるアレルギー反応で、赤みや腫れ、痒みが現れることがあります。特にアトピー性皮膚炎の方は手荒れを起こしやすので注意が必要です。
4.科学的根拠に基づいた具体的なケア方法
1.手荒れ予防と発症時における対処の考え方
日常的な手荒れ予防と手荒れが起こってしまった時の対処の考え方は以下の通りです。
・皮膚のバリア機能の維持:角質層の水分量を保ち、外部の刺激から皮膚を守る。
・炎症の抑制:皮膚の炎症を抑え、痒みなどを軽減する。
・皮膚の再生を促進:ターンオーバーを正常化し、新しい皮膚細胞の生成を促す。
・美肌効果:肌のキメを整え、なめらかで美しい肌へと導く。
2.手荒れ予防・手荒れ対策
皮膚の構造と機能を理解し、そのメカニズムに基づいてハンドケアすることが重要です。
・保湿と皮膚の保護の組み合わせ:手洗いや消毒の後、すぐに保湿剤を塗り角質層へ水分を与えましょう。保水後は、経皮水分蒸散の抑制や皮膚のバリア機能の強化を考えてハンドクリームを選択することが大切です。
・刺激物質に直接触らない:環境クロスなど薬品の入った製品に触れる時には手袋を装着しましょう。また、食器洗いの際は、皮膚への刺激が少ない中性洗剤を選びます。ただし、中性洗剤でも酸性寄り、アルカリ性寄りと、製品によって特性が異なるものです。できれば皮膚のpHに近い製品が肌には良いといわれているため、成分表示で確認してみてください。特に、ご自身の肌にとって刺激の強い洗剤等を使用する場合、自宅でも手袋を装着する習慣をつけましょう。この時使用する手袋の素材によっては、アレルギー反応を起こすことがあるので、皮膚の反応を確認しながら使用します。手袋を長時間使用する場合は、手のふやけに注意が必要です。
・アレルギー物質を特定する:アレルギーの原因となる物質を特定し、接触を避けましょう。
・生活習慣を見直す:食事は、ビタミン類(ビタミンA・C・Eなど)やミネラル類をバランス良く摂取しましょう。できる限り十分な睡眠をとり、肌の再生を妨げないような環境を整えることが必要です。また、ストレスは免疫機能の低下・皮膚トラブルを悪化させる要因となるので、ストレスを溜め過ぎないようにするなど、生活習慣の見直しも大切です。さらに、明らかな手荒れがなくても、就寝前のハンドケアを継続的に実施しましょう。
・皮膚科を受診する:上記の対応でも症状が改善しない場合は、早めに皮膚科を受診し、適切な治療を受けることが大切です。特に、炎症が生じている場合は、その原因の特定と併せて治療を進めていく必要があります。また、受診して薬が処方された場合、その薬の特性を確認し、適切なタイミング・方法で治療し治るまで続けましょう。
3.「ハンドクリーム」の科学的な選択の参考に
私が手荒れ対策のお話をする際「手のケアは、顔のケアと同等に!」と、お伝えしています。
洗顔後に保湿しないと、顔の皮膚がピキピキ・パキパキする感じがあるかと思います。手の皮膚は感じにくいのですが、年齢を重ねるごとに同様の状況になることも。そのため、日頃から手荒れの発生予防は大切であり、発症した場合には、症状や体質に応じた的確な対処が必要です。
皮膚をケアするときは「保水」→「保湿」の順です!
以下を組み合わせてご自身に合うハンドケアを模索してみてください。
※保湿のタイミングは、一日数回、就寝前後・外出前・手洗い毎・家事の後など、手が乾燥しやすいときです。そのうえで手の表面に保護膜を形成し手への刺激を軽減するバリア機能をもったバリアクリームを使用することが、学会のガイドライン※1で提示されています。
保湿
・角質層への水分供給:尿素、ヒアルロン酸、セラミドなどの保湿成分が、角質層に水分を補給し、バリア機能を強化します。
・経皮水分蒸散の抑制:ワセリンなどの油分が、皮膚表面に膜を作り、水分蒸発を防ぎます。
・深層保湿:ハンドマスクやオイル、保湿の美容液を併用し、集中的なケア及び肌のターンオーバーを促す効果が期待できます。
バリア機能の強化
・セラミド:皮膚の角質層に多く含まれる脂質で、細胞間の隙間を埋めて、水分を保持する役割を果たします。
・コレステロール:セラミドとともに、角質層のバリア機能を強化します。
炎症抑制
・抗炎症成分:アロエベラ、カモミラなどの植物成分が、皮膚の炎症を抑えます。
抗酸化作用
・ビタミンC・E:活性酸素による酸化ストレスから皮膚を守り、老化を予防します。
まとめ
手荒れは放っておくと悪化し、仕事や日常生活に支障をきたす可能性があります。健やかな手を保つために、季節やご自身の肌質、生活習慣などに合わせて、自分に合った科学的で適切なハンドケアの方法を探してみてはいかがでしょうか。
参考文献
※1 日本皮膚科学会 接触性皮膚炎診療ガイドライン2020、日本皮膚科学会 手湿疹診療ガイドライン
ライタープロフィール
【工藤智史(くどうさとし)】武蔵野徳洲会病院 感染管理室 感染管理認定看護師
介護福祉士取得後に看護師へ。手術室、外科、循環器内科を経験。主任として働く傍ら、教養学部学士を取得。2014年に感染管理認定看護師の資格を取得した。2018年8月より、現任の武蔵野徳洲会病院 感染管理室へ配属となり、感染管理者として勤務している。
趣味は自転車、散歩・食べ歩き、温泉めぐり、ディズニー、詰め放題、御朱印集め