民間救急看護師を知ってますか?
転院時などに患者さんを搬送する民間救急車。私はその民間救急車に同乗する看護師です。
一見、ただの移動に見えるかもしれません。しかし、民間救急車という限られた空間だからこそ生まれるドラマと「あるある」が車内には詰まっています。
そんな現場で日々感じる「あるある」エピソードをご紹介します。
目次
準備がすべて!30項目以上の標準装備物品
民間救急看護師としてまず大切な業務は、出発前の準備です。酸素ボンベ、マスク、吸引器、AED、点滴棒、心電図モニター、シリンジやガーゼ類まで、準備する標準装備物品は30項目以上。限られた車内でもすぐに取り出せるよう、使用頻度やタイミングを想定して配置しています。
標準装備物品を準備しながら、患者さんの状態や搬送距離を考え、必要になりそうな物品を頭の中でシミュレーションしながらチェックしていきます。「もしも」に備える整理整頓と、限られた空間での段取り力――それが、搬送中の安心につながるのです。
バイタルサイン測定は体幹トレーニング
走行中の車内で測定するバイタルサインや吸引処置は、まさに動きながらの看護です。ストレッチャー上で仰向けになっている患者さんに中腰で血圧を測ったり痰を吸引したり、酸素や点滴を管理したりするのが日常業務。揺れる車内での中腰姿勢で、カーブやブレーキのタイミングをよみながら踏んばる作業は、看護版体幹トレーニングです。
集中力と全身の筋力、そして看護師の経験値が試される、それが民間救急看護師のリアルです。
家族の不安もまるごと受け止めます
民間救急では、患者さんに寄り添って同乗されるご家族もいれば、別の車で追走される方もいます。
とくに長距離の移動では「家族だけでは不安だった」「話せる人がいて安心した」といった声をいただくことも少なくありません。
患者さんの状態を観察するのはもちろん、ご家族の疲労感や体調、到着後の段取りへの不安、渋滞や悪天候といった外的ストレスにも、さりげなく目を配り声をかけます。緊張や不安がいっぱいの移動を、安心して過ごせる時間に変えることも民間救急看護師の大切な役割です。
相棒ドライバーへの信頼
民間救急において、ドライバーはただの運転手ではありません。
吸引が必要なタイミングでは、車内の揺れが最小限になるようにブレーキをかけてくれたり「体位変えたいです」の声には停車して患者さんを支えてくれたりします。
患者さんの状態や看護師の動きを背中で感じながら、急がず焦らず、到着時間を意識して安全に、絶妙なバランスで搬送を支えてくれる唯一無二のパートナーです。
車内での作業確認の声かけや、帰り道のさりげない雑談にいつも助けられています。
とんぼ返りでも景色は楽しむ
民間救急では、全国どこへでも搬送することがあります。美しい海や山、四季折々の風景、初めて訪れる街並みに、思わず心が躍ることも。
とはいえ実際には、搬送先での引き継ぎを終えたら即Uターンです。景勝地の看板やご当地グルメののぼりを横目で楽しみながら帰路につきます。車から足を降ろすのは、患者さんの搬送時とトイレ休憩くらいの現実。有名な観光地や美しい絶景である通過ポイントを楽しめるのが民間救急看護師です。
緊張感が高まる新幹線や飛行機搬送
遠方への搬送では、新幹線や飛行機を使うこともあります。
搬送中は、酸素ボンベや点滴を管理しつつ、他の乗客への配慮も欠かせません。
必要物品を持ち込む準備や車内で安全に過ごす体位の工夫、必要な処置やケアの片づけまで、すべてに気を配りながら、患者さんの観察とケアを続けます。
一見状態が落ち着いて見える患者さんでも「無事に着いて…」と終始祈りモードで過ごすのが民間救急看護師なのです。
目的地に到着し「ありがとうございました」「無事に帰れてよかった」と言っていただけた時は、言葉にならないほどホッとできる瞬間です。
まとめ:人生の節目にそっと寄り添う看護
民間救急の搬送には、退院・転院・帰郷など、患者さんやご家族それぞれの人生の物語があります。
その節目に立ち会い、そっと寄り添うのが民間救急看護師です。
「連れて帰れる方法があるなんて思わなかった」
「もう帰れないと思っていました」
そんな言葉をかけられるたび、搬送は“ただ命を運ぶ”だけではないと気づかされます。
命を運ぶだけではなく、人生の節目に寄り添い、その人らしく生きる場所へ帰るお手伝いができる民間救急看護師のあるあるでした。
ライタープロフィール
【みずいろ】ナースLab認定ライター
看護師歴は20年以上。病院勤務(呼吸器内科6年、神経内科2年) 、デイサービス、訪問入浴、訪問看護を経験。現在は子育て時間を優先するためライター活動を中心に時短勤務中。
ナースLabホームページ:https://nurselab.net/home




