病院とは違って、患者さんのお宅や有料老人ホームなどを一軒一軒回る訪問看護。季節の変化が直接感じられる一方で、患者さんやご家族との距離も近く、病院では味わえないユニークなエピソードがたくさんあります。そんな訪問看護師ならではの「あるある」体験をいくつか紹介します。きっと訪問看護師なら「わかる～！」と言ってくれるはず。

夏の日焼け対策が完璧すぎて、まるで変質者！？

自転車や原付バイクで患者さん宅を回る訪問看護師の装備を見たら、驚く人も多いのでは？日焼け止めクリームを塗るだけでは事足りず、アームカバーに、つばの広い帽子にサングラス、首元にはタオル……といった完全防備。もしかしたら変質者や泥棒に間違えられてもおかしくない装いになっているかもしれません。

訪問バッグが四次元ポケット化！？

訪問看護師にとって必要不可欠な訪問バッグ。「あれもあったほうが便利」「これも！」「あ、これも……」と入れていくうちに、あの青い猫型ロボットの四次元ポケットなみに何でも出てくる状態に。体温計、血圧計、SpO2モニターはもちろん、様々なサイズの絆創膏、種類の違うハサミが3本、爪切りだけじゃなく複数の爪やすりやニッパーなど……。さらに、患者さんに使うものだけでなく、自分用のスリッパに雨具、日焼け止め、うちわ、緊急時用のお菓子まで。時々バッグの大掃除をすると、実は同じものが5個も入っていたなんてこともあります。でも結局「念のため」と思って、また同じように詰め込んでしまうんですよね。

患者さんやご家族からのお茶・お菓子攻撃

「お茶でも飲んでいって」「これ持って帰って。」患者さんやご家族からのこんなおもてなしで、訪問のたびに「受け取る」「受け取らない」の押し問答になることもありませんか。中には訪問看護師がお茶を飲み終えないと帰れない、なんていうお宅も。高齢の患者さんは「来てくださってありがとう」という感謝の気持ちを、お茶やお菓子で表現してくださることが多いんです。職場の規定や患者さんの状態を考慮して「受け取る」「受け取らない」の判断をすることが大切です。患者さんの気持ちを大切にしながら、程よくお付き合いする加減が訪問看護師の腕の見せ所です。

毎回同じ、それも大切な情報

頻繁に訪問している患者さんなのに、玄関で毎回「はじめまして。どちらさまでしょう？」と言われたり、同じ昔話を聞くうちに、いつの間にかストーリーを完璧に覚えてしまったりするものです。訪問看護では同じ患者さんのところへ回数を重ねて訪問することができるのも病院との違いで、面白さの一つです。ただ「あ～、今日もまた同じパターンか」と思うのではなく、同じことを言っている状況から状態変化の有無をアセスメントにつなげています。

この時間は○○さんだけのもの、と実感する瞬間

病院では、患者さんが心を開きかけてくれて胸の内を話し始めてくれても、ナースコールや医師からの連絡などで中断されて、ゆっくり傾聴できないこともたびたび体験してきました。しかし、訪問看護では違います。患者さんのお宅にいる間は、その方だけのための時間。「今日は調子どう？」「最近、気になることある？」そんな何気ない会話から始まって、病気のこと、家族のこと、昔の思い出まで、じっくり耳を傾けることができます。途中でナースコールに呼ばれて中断、なんてことはありません。患者さんのペースに合わせて、時間内であれば心ゆくまでお話しできる。この時間に魅了されて訪問看護にどっぷり染まってしまっている人も多いですよね。「看護師さんが来てくれて、本当に安心します」そんな患者さんの言葉を聞くたび、一対一で向き合える訪問看護の素晴らしさを実感します。

まとめ

いかがでしたか？訪問看護経験者なら、きっと「わかる～！」と共感していただけたのではないでしょうか。一方で、訪問看護未経験のあなたは「訪問看護に携わってみたい」とちょっとでも興味を持ってくれたら嬉しいです。日焼け対策に四次元ポケット化したバッグ、患者さんとの温かいやりとり……大変なこともたくさんあるけれど、それ以上に患者さんとじっくり向き合える時間は代えがたいものです。まだまだ少数派の訪問看護師ですが、これからの高齢社会において今まで以上に求められること間違いありません。とてもやりがいがあるお仕事、この記事をきっかけに興味を持ってくれる方がいたら嬉しいです。

～ライタープロフィール～

【ほっしー】ナースLab認定ライター
看護師歴20年以上。国立系大学病院にはじまり、総合病院、民間中小規模病院、訪問看護とさまざまな医療機能の病院などでの勤務歴あり。
現在看護師をしながら、Instagramでの発信活動と、看護師ライターとしても活動中。

看護師による看護師のためのwebメディア「ナースの人生アレンジ」