「家族って誰?」家族のかたちは変化する

ナースライター ふじエミ
ナースライター ふじエミ
「家族って誰?」家族のかたちは変化する

「ご家族の方ですか?」そう尋ねた相手が「いえ、そういうわけではないんですが・・・」と戸惑った表情を浮かべる。
近年、現場でそんな場面が増えていませんか?「血縁者が家族」とは限らず、パートナーや友人、支援者など、患者さんにとって「大事な人」のあり方は多様化しています。今回は、そんな「いろんな家族」と向き合うとき、看護師としてどんな視点を持てばよいかを考えてみます。



「家族」のかたちは、こんなにも変化している

「家族=血縁者」ではないケースは、今や特別なものではありません。
たとえば、事実婚やセクシュアルマイノリティのカップル、再婚家庭、支援者同士のシェアハウス、高齢の兄弟姉妹同士などが挙げられます。現場では「この人はどんな関係?」と思う相手に出会う機会が増えています。
一方で、診療情報提供の同意や治療方針の説明など、医療制度上は「家族」や「キーパーソン」を求められる場面も少なくありません。そのため「実際の関係性」と「書類上の立場」にズレが生じることがあります。
患者さんが最も信頼を寄せている相手が「法的な家族ではないから」という理由で情報提供や面会を断られてしまう、そんな経験をした方もいるのではないでしょうか。
多様化した社会に合わせて、医療者の認識や制度もアップデートが必要です。「この人が家族かどうか」よりも「患者さんにとってどんな存在なのか」を大切にする視点が求められています。



「キーパーソン」だけでは見えない関係性もある

入院時に決めてもらう「キーパーソン」ですが、窓口として連絡を受けたり治療方針の相談を担ったりすることが多い傾向です。しかし、それだけでは不十分なケースもあります。
たとえば、キーパーソンである家族が遠方にいるため、近所の友人が日常的なケアを担っている場合。あるいは、実の兄弟姉妹や子どもがいても疎遠であったり、逆に強く干渉しすぎていたりする場合が挙げられます。関係性の濃淡はさまざまであるため、第三者が外から見ただけでは判断できません。
そこで看護師に大切なのは「患者さんの語り」や「ふとしたやりとり」から、その人がどんな存在を大事にしているのかを感じ取る姿勢です。
キーパーソンだけでなく「その人にとって大切な存在」を広く捉えることが、より適切なケアや支援につながります。



見えにくい関係性にこそ、看護師の感性が生きる

看護師は、制度や書類の枠では捉えきれない「人とのつながり」を日々のケアの中で垣間見ることができます。
たとえば、面会のたびに身だしなみを整えてあげる人、洗濯物を持ってきて黙って帰っていく人、連絡は少なくても毎日のように患者さんが名前を口にする人。こうした態度や語りに、その人との絆が現れていることがあります。
「ご家族の方ですか?」ではなく、「〇〇さんとどんなご関係ですか?」と尋ねることで、相手は自分の立場を語りやすくなります。患者さんが信頼している人との関係を尊重することは、患者さん本人にとっての安心にもつながります。看護師としてできる小さな気づきが、よりあたたかなケアの土台になるのです。



「こんな時どうする?」現場で悩んだときのヒント

「こんな時どうする?」現場で悩んだときのヒント

現場では「この人にどこまで話していいのか」「情報はどこまで共有できるのか」と迷うことがあります。
そんなとき大切なのは、一人で抱え込まず、チームで相談すること。制度や規定を確認しながら、できる限り本人の意思を尊重していきましょう。
とはいえ、同意書や説明の同席など、法的な手続きが必要な場面もあります。厚労省や民法の解釈をもとに、各医療機関では「説明の優先順位」が定められており、一般的には次のように整理されています。


    【情報提供・同意の優先順位(一般的な例)】

  • 1. 患者本人
  • 2. 配偶者(婚姻関係にある夫・妻)
  • 3. 親(父母)、子
  • 4. 兄弟姉妹・祖父母などの親族
  • 5. 成年後見人
  • 6. 内縁関係の配偶者、事実婚の相手

こうした法的な優先順位は尊重しつつも「気持ちを聞くこと」「感謝を伝えること」に制限はありません。法的には家族でなくても、毎日通う支援者に「今日もありがとうございます」と声をかけるだけで、患者さんや周囲の人の支えになります。
看護師の役割は、制度を守るだけではなく、患者さんと周囲の人との「あいだ」をつなぐ存在であること。関係性が見えにくいときほど「この人にとって大事な存在は誰だろう?」と耳を澄ませてみてください。その感覚が、ケアを温かくする力となります。



まとめ

家族のかたちは、時代とともに変化しています。血縁だけでなく、人生のパートナー、友人、支援者――さまざまな関係性が、患者さんにとっての安心を支えています。
私たち看護師ができるのは、その多様なつながりに気づき「その人にとって大事な存在」を大切にすること。「家族って誰?」と悩んだときこそ、看護師の感性が光る瞬間なのかもしれません。



参考文献

厚生労働省:「医療における意思決定支援の手引き」(2022年版)
「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」
「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン(第2版)」等
法務省HPより民法:第7条~(成年後見制度について)、第725条(親族の範囲)、第818条・824条(親権)
日本看護協会:「看護職のための意思決定支援に関するガイドライン」



~ライタープロフィール~

【ふじエミ】ナースLab認定ライター
家族ケア専門士、元緩和ケア認定看護師。急性期やがん看護を経験し、三児の母として子育てと両立しながらクリニック勤務。カラーアナリスト・色彩講師としてアピアランスケアに取り組み、看護と色彩で笑顔を支える。

看護師による看護師のためのwebメディア「ナースの人生アレンジ」


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