リフレーミングコラム~物静かな患者さんが教えてくれた退院支援の大切さ~

ナースライター 梅子
ナースライター 梅子
リフレーミングコラム~物静かな患者さんが教えてくれた退院支援の大切さ~

「ドラえもん」の単行本漫画を繰り返し読む物静かな患者さん。
私が1年目にプライマリー看護師として初めて担当させてもらい、退院支援の道を歩むきっかけとなった患者さんです。

患者さんは、70代後半の男性。細身でとても穏やかな方でした。誤嚥性肺炎で入院していましたが、ADLはほぼ自立し、1冊の漫画を繰り返し読んで過ごしていたのです。キーパーソンの娘さんも面会に来られ親子関係も良好でした。

入院後の経過は良好で、主治医から退院許可が出ましたが、柔らかい食事形態が必要な状況でした。患者さんは独居、娘さんも就労しており食事の準備が難しいため、ショートステイを利用する予定に。無事に退院の日を迎え、娘さんに付き添われた患者さんは穏やかな笑顔で手を振りながら退院されたのです。

ところが翌朝、病棟に出勤すると、その患者さんが入院していました。しかも誤嚥性肺炎で。私は何が起こったのか理解できず、言葉が出なかったのを今でも覚えています。

患者さんはショートステイ先で「好きなものを食べたいから入院も我慢していたのに、好きなものを食べられないなら家に帰る」と怒鳴ったそうです。拒否の意思が強く興奮してしまったため自宅に戻りました。その夜、自宅で夕飯を食べた際に誤嚥してしまい、救急搬送され再入院となってしまったわけです。


退院の翌日に同じ病名での再入院は、患者さんに必要な支援ができていなかったことに他なりません。私は患者さん自身について何もわかっていなかったんだ、と落ち込みました。

病棟師長からは「患者さんが本当はどうしたいと思っているかを今度はしっかり聞いてみましょう。実現するにはどうすれば良いか、もし無理なら他に選択肢はないのか、などをご本人やご家族と一緒に考えていきましょう。」と助言いただきました。

私にとって初めての受け持ち患者さんだったため、看護計画やサマリーを書くのに必死で、患者さんの想いを置き去りにしていたように思います。
「ドラえもん」の漫画を繰り返し読み、ずっと穏やかに過ごしている姿から、退院先についても納得していると思い込んでいました。
初回の入院時に娘さんからお話を聞きましたが、ご本人からは何が食べたいか、どこでどんなふうに過ごしたいのか、退院後の希望などを具体的に聞けていないことに気付いたのです。


リフレーミングコラム~物静かな患者さんが教えてくれた退院支援の大切さ~

私は二度目の入院で、ようやく患者さんご自身から「自宅に戻って好きなご飯を食べたい」という想いを聞けたのです。
患者さんの希望を確認してからは、ベッドサイドで実践できるリハビリを先輩に教えてもらい、食前の嚥下体操とアイスマッサージを看護計画として立案。
ご飯も掻き込むように食べていたので、スプーンですくう量を患者さんと確認し、安全な食べ方も練習してもらうことにしたのです。
患者さんに了承を得て、嚥下体操と食べ方のイラストを病室の壁に貼りました。すると、面会に来た娘さんと患者さんが、2人で嚥下体操している姿を目にすることも。

その後2回目の肺炎治療も終えましたが、普通食はまだ難しく、嚥下の見守りも必要な状態でした。主治医からの説明を受け、娘さんは嚥下訓練ができる施設への転院を希望されたのです。しかし、患者さんは「自宅に戻る」とこわばった表情で一言のみ。
娘さんは「お父さんに好きなものを食べてもらいたいと思ってる。でも、このままだとそれが無理だから、もうちょっとの間、見守ってもらいながら食べる練習をして欲しい」と気持ちを伝えました。
加えて私は、嚥下体操を毎日頑張って、一口量を守ってくださっているから、食事形態が普通食に近づいていることを説明。
すると、患者さんは頷きながら「わかった。もう少しがんばる」と娘さんに返事されました。そして、退院当日まで嚥下体操を続け、嚥下訓練のできる施設に転院されたのです。


リフレーミングコラム~物静かな患者さんが教えてくれた退院支援の大切さ~

患者さんとの関わりから私が目指した看護

私はこの経験から、患者さんやご家族が退院するときに「良かった」と少しでも安心してもらえるよう支援したいと考えるようになったのです。

急性期病棟の次に勤務した地域包括ケア病棟は、まさに退院支援がメイン。そこでは、医師、看護師、PT、MSW、管理栄養士など多職種連携の大切さを学びました。
その経験から、より退院支援業務に集中したいと思い、地域医療連携室への配属を希望したわけです。
配属後は後方支援として、ケアマネジャーや訪問看護師など地域で支援している方々との連携を経験しました。支援を通して、患者さんの退院後の生活をよりリアルにイメージできるようになったのです。

そして今は地域包括支援センターで勤務しています。地域の中で、その人らしく望む生活を続けるにはどうすれば良いか、医療と福祉の面から多職種で検討し支援する仕事です。
ナース服ではないし、注射も点滴もしませんが、日々看護師としてのやりがいを感じながら勤務しています。
あの時の患者さんとの関わりのおかげで今があります。貴重な経験と得た学びを大切に、これからも頑張っていくつもりです。



リフレーミングコラムとは?

このコラムでは、看護職としてお仕事をしている皆様のなかで、心に残るエピソード、もっと上手く対処したかった悔しい経験、今だからクスッと笑える話を共有し、前向きに昇華したいと考えています。日々積み重なっている思いを同じ職種だからこそ分かち合える「看護」という共通言語でつづり、皆様にとって何かの助けになることを願っています。

~ライタープロフィール~

【梅子】ナースLab認定ライター
社会人から看護師になり11年目。これまで急性期病棟、地域包括ケア病棟、地域医療連携室に勤務。現在は、地域包括支援センターにて勤務し、ペットとひとの暮らしに関して活動中。

看護師による看護師のためのwebメディア「ナースの人生アレンジ」


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