極めたい分野の専任看護師への道:デバイスナース

順天堂大学大学院医学研究科 修士課程 鈴木まどか
順天堂大学大学院医学研究科 修士課程 鈴木まどか
極めたい分野の専任看護師への道:デバイスナース

皆さんはデバイスナースをご存知ですか?
デバイスナースとは、ペースメーカーやICD(植込み型除細動器)などの医療機器を植え込んだ患者さんの心と体のサポートを行う看護師のことです。現在、私はデバイスナースとして活動していますが、まだその活動を知ってくれている人は多くないと思います。そして、現在、私は自分の仕事の価値を自分で証明するために大学院へ進学しました。こんな私ですが、最初から看護師を目指していたわけではありません。私の人生が大きく変わったのは、21歳の春。手術を受けた病院で出会った一人の看護師の姿が、今の私の原点になりました。

看護師を目指したきっかけ

幼いころ、私は看護師という職業に良いイメージがなく、自分が看護師になるとは夢にも思っていませんでした。高校卒業後は芸術の道に進んでいた私ですが、21歳の春、急性虫垂炎から腹膜炎になりかけてしまい、緊急手術を受けました。その日の夜勤の担当看護師のケアに感銘を受け、「こんな生き方をしたい」と、看護師になることを決意しました。

運よく、手術を受けた病院で、看護助手として働かせていただき、現場を見ながら猛勉強して、翌春、晴れて看護学生になることができました。4歳年下の子たちと日々はしゃぎながら、テストや実習をこなし、3年後、無事に卒業し、看護師免許を取得しました。「最初の5年が肝心」と先輩方から言われていたため、大学病院で働きたいと考え、順天堂大学医学部附属順天堂医院で看護師としてのスタートを切りました。



植込み型除細動器(ICD)を植え込んだ患者さんの苦しみに触れて

最初の配属は、循環器内科の外来でした。専門性をもつように、という当時の主任の方針により、最も興味があった不整脈の外来の診療補助を継続的に行っていました。その中で、ある患者さんに出会いました。心筋症の患者さんで、ICDが頻繁に作動していました。ICDのショック作動は、私たちが考えているよりはるかに痛みが強く、恐怖心の強いものだということを、当時看護師1年目だった私は理解できておらず、「ICDが働くのが怖い」と打ち明けてくださった患者さんに、「命を救われているのですから・・・。」と言ってしまったのです。その時の患者さんの絶望に満ちた表情を、今でも忘れることができません。

数日後、病院の敷地内で偶然その方に会ったのですが、私に駆け寄って、私の腕を両手で掴んで、「本当につらい。こんなにつらいなら、ショックを打たれずに死んでしまいたい」と涙ながらに話されたのです。医療は、命を救うことが一番大事だと思っていた未熟な私は、頭を思いっきり殴られたような衝撃を受け、自分がとても恥ずかしく、情けなくなりました。デバイスは「植え込んだから安心」ではなく、心身ともにサポートしてくれるプロフェッショナルがいてこそ、安心して生活することができるのだと痛感したのです。特に、看護師には、心をサポートする役割が強く求められると思い、デバイスに関して勉強する日々を送りました。


植込み型除細動器(ICD)を植え込んだ患者さんの苦しみに触れて

デバイスナースになったきっかけと現在の活動

結婚・出産を経て、育児中心のライフスタイルを送っていたため、7年ほど循環器の現場から遠ざかっていました。前職の退職を決めた2020年の夏、新人のころからお世話になっている現在の上司に、転職の相談をしたことがきっかけで、順天堂大学循環器内科(診療科)にデバイスナースとして配置していただけることになりました。

デバイスナースは、正式な役職ではないため、看護部からの配置ではないのですが、日々、不整脈チームの一員として、遠隔モニタリング、外来の対応、退院前の面談など患者さんからの相談に対応しています。その中で改めて思うのは、「デバイスは植え込んで終わりではない。そこから、患者さんはデバイスと共に歩む人生をスタートする」ということです。

どの手術でも、術前と術後の患者さんの状態は同じではありません。例えば、腫瘍の摘出術なども、術後は、腫瘍のあった部分を失って、その臓器の機能を様々な方法で補いながらの生活になります。さらにデバイスは、植え込んだことで、特に除細動機能が付いているもので様々な生活の制限を受けることになり、不安や疑問が生活の中でたくさん出てきます。それに対して、十分なケアが行われないと、せっかく命が助かっても、たとえ症状が改善しても、「手術を受けなければよかった」と後悔してしまうことになります。そんな思いをする患者さんを0にしたいという思いで、日々のケアに励んでいます。



デバイスナースとしての今後の目標

デバイスナースは認定資格ではないため、配置を望んでも、マンパワーや組織の体制の問題で叶わない施設が多いのが現状です。私自身、5年間専任として従事してきて、絶対に必要な存在だと認識しています。高度な知識と豊富な経験を持つデバイスナースが介入することで、心身ともに患者さんのケアを行えることはもちろんですが、チームに参入することで、患者さんのQOLの改善を図ることも可能だと考えています。この立場を制度化するため、今春から、大学院へ進学し、デバイスナースのケアの価値を証明することに励んでいます。

デバイスを植え込んだがために不幸になる方を0にするために、デバイスナースになりたい看護師が立場を確立して活動できるよう、日々奮闘中です。ぜひみなさんも、デバイスナースを目指してみませんか?このコラムを通してデバイスナースに興味を持ってもらえると嬉しいです。



~ライタープロフィール~

【鈴木まどか】順天堂大学大学院医学研究科 修士課程
2004年看護師免許取得。3児の母。様々な経験を経て2020年より順天堂大学循環器内科へ着任。
現在、デバイスナースの価値を可視化して制度化できるよう、順天堂大学大学院医学研究科で研究に励んでいる。

Xアカウント:https://x.com/machiyayo


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