「何を話しても反応が薄い」
「会話が続かない」
「私、嫌われているのかな……」
無口な患者さんとのコミュニケーションが苦手と感じたことはありませんか?新人時代に私が出会ったAさんは、話しかけても返事はたいていひと言だけ。沈黙が続くと私は焦ってしまい「もっと話さなければ」と空回りしていました。
Aさんは50代独身の男性。小腸癌でイレオストミー(回腸ストーマ)を増設され、イレウスを繰り返して半年以上も入院生活を送っていたのです。消化器外科病棟ではストーマ交換の技術習得が必須だったため、新人の私は、先輩の指導のもとでAさんのケアに入る機会が多くありました。Aさんは口数が少なく、S情報がほとんどない方。先輩と一緒の時は気にならなかったものの、独り立ちしてからは会話が続かず、自分の清拭やストーマ交換の手技が不快になっていないかさえわからず、毎回かなり緊張していたことを思い出します。
私は、会話を広げることがあまり得意ではないものの、初めのうちはAさんとの会話を広げようと必死でした。しかし無口なAさんと私の会話は弾まず……。Aさんがどんなことを思っているのか、辛いところはないか、とても不安でした。会話は続きませんでしたが、必要な看護ケアを丁寧に提供するように心掛け、変化があればすぐに声をかけるようにしていました。

初めはAさんとの間に大きな壁を感じていましたが、3ヶ月、半年と関わるうちに、Aさんから「あ、今日の担当はあなたね」という雰囲気を感じ取れるようになりました。血圧を測定する時は腕を差し出してくれたり、ストーマ交換や腹部を聴診する際は見やすいように体勢を変えてくれたりと、私が訪室すると少し表情が和らぐことに気づいたのです。
ある時、先輩と二人で訪室した際に私は、Aさんの脇に挟んだ体温計を抜き忘れてしまいました。その失敗を先輩がユーモアを交えて突っ込んでくれたことで笑いが起こったのです。とっさにAさんの顔色を伺うとAさんも笑っていました。その出来事がきっかけとなったのか、その後私が担当すると、以前よりAさんと目が合うようになりました。相変わらず会話は多くありませんでしたが、以前よりも距離が縮まったように感じたのです。
あの頃の私に伝えたいこと
今になって思うのは、Aさんの沈黙は拒絶ではなかったということです。無理に会話を続けるよりも、自分のペースを大切にしたい方だったのかもしれません。Aさんとの関わりを通して、コミュニケーションは言葉だけではないと学びました。丁寧なケアや変化に気づく視点、相手を尊重する姿勢も大切なコミュニケーションです。患者さんによって心地よい距離感はさまざまです。だからこそ今は、無理に会話を広げるのではなく、その人らしい関わり方を大切にしています。Aさんは私が新人のころから独り立ちするまで静かに見守り、少しずつ上達する技術を一番実感してくれていたのかもしれません。
あの頃の私が恐れていた沈黙は、決して拒絶ではありませんでした。言葉がなくても信頼関係は築けることを、Aさんは静かに教えてくれました。新人の私を成長させてくれたAさん、今でも感謝を忘れません。
リフレーミングコラムとは?
このコラムでは、看護職としてお仕事をしている皆様のなかで、心に残るエピソード、もっと上手く対処したかった悔しい経験、今だからクスッと笑える話を共有し、前向きに昇華したいと考えています。日々積み重なっている思いを同じ職種だからこそ分かち合える「看護」という共通言語でつづり、皆様にとって何かの助けになることを願っています。
ライタープロフィール
【黒兎さゆみ】ナースLab認定ライター
看護師ライター。看護師10年以上。3児のママ。消化器外科、泌尿器科、耳鼻科の混合病棟で勤務し、第1子妊娠。出産後は外来で勤務している。在宅での仕事を目指し、ライターに挑戦中。
看護師による看護師のためのwebメディア「ナースの人生アレンジ」




