転職や退職を考えるきっかけには、忙しすぎる業務や人間関係、キャリアアップ、結婚、子育てなど様々あります。理由はともかく、スムーズな退職を迎えるには、それなりの準備が必要です。特に「お金」のことは後回しになりがちなので、後悔することも。今回は退職する前に知っておきたい税金や保険のことを、事例と共にお伝えします。
目次
【事例】
新卒で総合病院に5年勤めたAさん、27歳独身。コツコツ経験を積んできましたが、バーンアウトしたことをきっかけに退職しました。
Aさんは友人のBさんにこう伝えました。「5年間頑張って働いたから、3ヶ月くらいは旅行したり好きなことしたりゆっくりしたい」。
するとBさんは、「仕事を続けない場合、住民税や健康保険、国民年金の支払いを考えないと。退職したら全額自己負担になるよ」といいます。
実はBさん、同病院を3年で退職し、転職経験のある人でした。
Aさんは税金や保険についての知識がありません。その後の不安があったので、Bさんに教えてもらうことにしました。
・退職したら税金、保険をこんなに支払うの!?
「退職」を考えたらお金の確認をしましょう。実は退職後に請求が来る場合があるので、ローンの支払や貯蓄額なども把握しておく必要があります。今回の事例では、退職後、すぐには働き始めない場面を想定しています。
1.住民税の請求は1年後!?
1年以上勤めている場合、住民税を毎月支払っています。そのため退職後にも住民税の納付書が郵送で届きます。給料は毎月控除されるので12分割になり、辞める時期によって負担額が変わります。基本的には、4期(6月、8月、10月、1月)に分割され、それぞれ3ヶ月分納める必要があります。
また、退職時に一括徴収と普通徴収を選ぶことができます。一括徴収とは、残りの住民税を給料や退職金から支払うことができる方法です。(ただし1月以降の退職の場合は一括徴収のみ)一方、支払いが厳しい場合は、役所など自治体の窓口に相談すれば支払いの分割や期限を延ばすことはできます。しかし、基本的に納める必要のある税金なので注意しましょう。
このように、今年度分の収入に対しての税金は、翌年に請求されます。収入が大きく減少する場合は軽減されることもあるので、自治体の窓口で相談することをおすすめします。
2.知らないと損!健康保険の選択とは
社会保険に加入している方は退職後に健康保険と年金の手続きが必要になります。まずは健康保険ですが、下記にある3つの方法から1つを選べます。
- ①家族の扶養に入る
- ②国民健康保険に加入する
- ③現在加入している会社の健康保険を継続する(任意継続という)
なお、社会保険料は給与額によって違いがあります。
①家族の扶養に入る場合、退職してからの収入が130万円未満であるなどの条件があります。雇用保険の基本手当をもらう場合は給付金も収入として扱われるため、注意が必要です。保険料に関しては扶養者が追加になっても負担額は変わりません。
②国民健康保険は役所で手続きが必要です。前年度の収入や扶養の状況が保険料に影響します。例えば、東京都在住、30歳、年収400万円で独身の場合、保険料の平均は約18,000円になります。保険料はお住まいの自治体によって変わりますのでご注意ください。
③任意継続の場合では、現在引かれている社会保険料の2倍の金額を支払う必要があるので注意が必要です。実は社会保険料の半分は病院(事業主)が負担しています。病院が支払ってくれていることを知らずに、任意継続を選択してしまうことがあります。実際は勤めている時の2倍の健康保険料を支払うことになったため 生活費が厳しくなったケースがあります。
3.国民年金免除の可能性!?
国民年金第1号被保険者及び任意加入被保険者の1カ月当たりの保険料は16,540円です(令和2年度)。しかし失業状態の場合、「失業等による特例免除」という制度があります。
免除の金額は世帯の収入が反映します。住民票の世帯が本人のみの場合は、全額免除となる可能性が高いです。ほかに結婚している場合や親と同居している場合などは世帯の収入が反映するので、世帯収入によって1/4~全額免除と変わります。また、年金の受給資格期間として計算されることは、将来受け取る際に大きな差が生まれます(10年間という受給資格期間を満たさなければ、年金を受給することができません)。
免除された分は追納する必要はありませんが、満額を受け取りたい方は過去10年以内の分であれば追納する事も可能です。
また、2年以内に12ヶ月以上雇用保険に会社が加入していた場合は、基本手当(失業手当)の申請を行うことも可能です。しかし自己都合退職(解雇や倒産以外)の場合では、申請してから手当の受け取りまで約4ヶ月かかりますので注意しましょう。
・Aさんの場合はどうなる?調べてみた結果
AさんはBさんから話を聞き、調べてみることにしました。
東京都在住、月給32万円、年収480万円、独身。世帯主はAさんで一人暮らしです。
給料からは健康保険料15,792円と厚生年金29,280円(∗1)、住民税19,250円(∗2)が天引きされています。
1) 住民税
3ヶ月分支払う場合は1回で約58,000円支払う必要があります。約年間231,000円です。(∗2)
2) 健康保険
親の扶養に入る場合は、保険料の負担はありませんが、住民票を実家にする必要があります。国民健康保険の場合は月に約24,000円のようです。(∗3)任意保険を継続する場合は現在支払っている15,792円×2で月に31,584円です。
3) 国民年金
Aさん一人だけの世帯の場合は、収入が0になるので「失業等の特例免除」が受けられそうです。
以上のことからAさんが決めたことはこちらです。
1) 住民税の支払いは退職金を使う
2) 健康保険は親に頼らず、国民健康保険に切り替える
3) 国民年金は免除申請をする
生活費の最低半年分は貯金することを決め、退職後の旅行費用の検討も行うことができました。あの時Bさんに教わることがなければ、旅行や気分転換のためにお金を使って、後々「こんなはずじゃなかった」と後悔していたかもしれません。
∗1
「全国健康保険協会」の東京都令和2年度保険料額表の月収32万円から抜粋
∗2
東京都主税局ホームページ「個人住民税」より
∗3
東京都足立区ホームページ「令和2年度国民健康保険料の決め方」より
まとめ
苦手意識の高い税金や保険は、退職するときに今後どうするのか選択する必要が出てきます。住民税は前年の収入によりますが、健康保険、国民年金は支払う必要のあるお金です。辞めてから「こんなはずじゃなかった」とならないためにも、事前の準備をしっかり行いましょう。
~ライタープロフィール~
【松井英子】ナースLab認定ライター
看護師になってからスノーボードにハマり、27歳からスポンサー契約する。10年近く期間限定の派遣看護師として多くの職場を経験し、医療や介護の場を経験する。ライフスタイルの変化から現在は群馬に移住し、地方病院で高齢者医療に携わる。 ストレスフルな環境だからこそワークライフバランスが大切であることを伝えたいと思い、仕事もプライベートも楽しむコツを発信。オンラインサロンのナースLab→にてイベントの企画や運営も行っている。