病院も、訪問先も、施設も、ご高齢の方が多くを占めています。年を重ねると自然に目が見えにくく、体が硬く、感覚の衰えに伴って生活場面では様々な不便が生じてきます。
不便の代表の一つが「爪切り」!
時に魔女のように爪が伸びてきても気がつかない方がいれば、その一方で、肉まで切っちゃったと笑っている方がいる。爪切りは身体の様々な機能を使いますので、ご苦労されてお困りの方は大勢いらっしゃいます。
そこで今回は、沢山ある足の爪切りケアのポイントの中から1つを厳選しご紹介します。現場ですぐに活かせる内容です。ぜひ最後までお読みいただけたらと思います。
1.爪と皮膚の境目チェック!
人の爪を切るときは、白いところを切ればいいものではありません。
ポイントはいくつもありますが、重要な項目の1つに爪と皮膚の境目の確認です。これをしないと必要以上に爪が伸びた状態となって皮膚にくい込んだり、切りすぎて流血騒動になったりなどの事態を招く恐れがあります。
爪は手足の先にあり、厚さや硬さ、形は様々です。そのうえ、以前にも書きましたが、足部の状態と歩行との関係は深く影響を及ぼす危険性があります。
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さらに、爪の食い込みや傷は「痛いから歩きたくない」といった生活行動に直結します。こういった些細なことがロコモティブシンドロームや、フレイルのトリガーになったりすることも。そのため、爪と皮膚の境目を確認して爪を切ることで、少しでも安全なケアの提供に繋げていきましょう。
2.見た目だけでは危険
フットゾンデ(写真1)という道具があり、これを使用します。同じものがないからといって先端が尖った楊子などを使用すると皮膚に刺してしまう危険性があります。代用する場合は、絶対に楊枝のような先端の尖ったものを使用しないでください。
1)オレンジの爪溝部分(写真2のA):
角質などが溜まりやすい部分です。古い角質やゴミを取り除きながら爪の生え方や端を確認しましょう。
2)グリーンの先端部分(写真2のB):
爪の色は白く変色していても、皮膚と乖離していないことがあります。逆に、爪の色だけを見ると切ってはいけないように見えていても、実際はどうなのかを確認します。爪甲下に浸軟した角質が貯留している時には、爪甲にびらんや瘻孔を形成していることもあるので、見逃さないよう注意深く角質ケアを行う必要があります。
また、爪の角部分は浸軟した角質やゴミが溜まりやすいです。巻き爪の方は爪の角に溜まったものを取り除くだけでも痛みが緩和することもあるため、しっかりと取り除きましょう。
注意:ゾンデには適切な使用法があります。物品だけ揃えて実践するのではなく、どこかでレクチャーを受けて安全に行なえるとお互いに安心ですね。
3.事例
(写真3)で爪の長さだけみると「少し長いかな」くらいだと思います。
ここでしっかり、ゾンデを使用して爪の端がどこに、どんな状態であるのかを確認すると、爪が強く皮膚に食い込んでいました。(写真4)
このケースは比較的多く見受けられ、パッと一見しただけではわかりません。特記するような疾患や神経障害の診断がなされていなくても、高齢に伴って痛みの感覚が衰えることは珍しくありません。幸か不幸か、このケースではご本人から痛みの訴えはありませんでしたが、無意識に圧迫を避けるように歩容が変化していても不思議ではありません。見た目だけで判断し、爪切りをしてしまうとこのようなことが起こり得ます。
4.安全に爪を切るには
安全にフットケアというケアサービスを提供するためには、必要な道具・知識、それらを使いこなしアセスメントする力が必要です。つまり、自分で行う爪切りとは似て非なるもの。ケアを提供する私たち自身が混同することなく、位置付けを明確にしましょう。
きちんと情報を収集し、アセスメントするために必要な道具があれば組織でも整えてくれるはずです。ぜひ、一緒に安全に必要なケアを提供し続けていきましょう。
まとめ:フットケアをするということと必要物品
一般的に爪を切るための必要物品は、爪切りだけと思われがちです。
そのため、フットケア外来などをしているような組織でないと、爪切り以外の関連用品はなかなか取り揃えてもらえない現状があります。
実際には、酒精綿や感染対策ツール一式、用途に合わせたニッパーやゾンデ、グラインダー、ヤスリ、保湿剤等の物品が必要です。加えて、時間、知識と技術を必要とします。
しかし、フットケアを学んでいないと、自宅で自分がしている爪切りと単純に置き換えて考えてしまいがちです。「単なる爪切り」にそれほどの必要物品や知識、技術を必要とすること、フットケアに時間を要することすら想像が及びません。
フットケアを行うには施術者側と利用者側双方の感染対策をしっかりと施さないといけません。こういったことを総合的に考えると、どんなに熱心なスタッフでも限られた物品と時間の中で、爪切りを片手間で行うには情報収集とアセスメントが適切に行えず、限界があることが容易に想像できます。タスクシフトのひとつとして、私のように出張フットケアをしている人材の活用も有効に感じます。
参考文献
1)高山かおる:足育学外来でみるフットケア・フットヘルスウエア,全日本病院出版会,2019,164
ライタープロフィール
【木嶋千枝(きじまちえ)】 Abeby 代表/大誠会内田病院
健康維持や健康寿命延伸には身体の基礎部分である足や靴が重要で、靴の履き方や選び方などの生活習慣が要なんだと声を大にする慢性疾患看護CNS。
自分らしいと思える時間を積み重ねてもらうためには足育が必要だと一念発起し、病院を飛び出し2019年Abeby起業。寄り添う看護を目指して取得した日本認定心理士や日本糖尿病療養指導士としての知識や技術を最大限に活かして、啓発活動や教育にも力を注いでいる。子どもとおとなの足靴カウンセリングサポートを群馬の自宅で開始。
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