目からウロコのメンタルヘルスー事例から学ぶうつ病予防ーその3

ナースライター 時任春江
ナースライター 時任春江
目からウロコのメンタルヘルスー事例から学ぶうつ病予防ーその3

うつ病発症プロセスを理解すれば予防ができる

「私はうつ病を30年患っています」私の講座に参加された方が、そうおっしゃいました。うつ病の典型的な経過を考えると長いのでは?と感じるのですが、みなさんはいかがでしょう。
うつ病の発症プロセスを理解できると、なぜ30年患っているのか、また予防方法も理解できます。今回は、うつ病発症プロセスについてお話します。



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目からウロコのメンタルヘルスー事例から学ぶうつ病予防ーその2

1.疲労とメンタルヘルス不調

25年間の看護師人生を振り返ると「疲労」が課題でした。周りの同僚や上司、後輩もみんな疲労を溜めて仕事していました。「疲労」は、新人看護師のリアリティショックや中堅看護師の燃え尽き症候群、人間関係の問題やメンタルヘルス不調の原因の一つになっていることが様々な看護研究でわかっています。
「疲労」とは交感神経が優位な状態です。交感神経優位な状態の延長線上に、メンタルヘルス不調やうつ病があります。
このメンタルヘルス不調やうつ病に至るプロセスを説明しているのが、NIOSH職業性ストレスモデルです。



2.NIOSH職業性ストレスモデルでうつ病発症プロセスを理解しよう

NIOSH職業性ストレスモデルでは、うつ病を発症する要因が4つあるといわれています。

① 職場のストレス要因
② 仕事以外のストレス要因
③ 個人的要因
④ 緩衝要因
…です。

ストレス要因は①職場のストレス要因と②仕事以外のストレス要因の2つに分かれています。職場のメンタルヘルスを考える時、私生活上のストレス要因に目を向けることが重要だというのです。家族の病気や介護などはもちろんのこと、結婚・妊娠・出産など喜ばしいことも含まれます。

③個人的要因には性別や社会的状況、性格や自己評価の高さなどがあります。こだわりやすいとか、責任感や几帳面などがこれに当たります。

④緩衝要因とは社会的支援といわれ、上司や同僚、家族の支援があるかどうかを指します。ストレスフルな職場なのに、メンタルヘルス不調を起こすスタッフがいない、そんな職場には適切な支援者が存在するのではないでしょうか。

このような4つの要因が複雑に絡み合い、メンタルヘルス不調やうつ病を発症します。急性ストレス反応などの不調が起きてからの対処も必要ですが、予防が最も重要です。



3.予防のポイントは自律神経を健全に維持すること

急性のストレス反応が起きる前に、自律神経の変調が起きます。自律神経を健全な状態に維持することが予防のポイントです。みなさんの職場では、自律神経を健全に維持できるような取り組みがなされているでしょうか。

呼吸法、マッサージ、アロマセラピー、軽い運動、森林浴、ヨガなど、他にも自律神経を健全に維持する方法はたくさんあります。
そのような知識があり、自分に合った方法を実践できれば、うつ病予防が可能になります。
夜勤が終わった後に、病院内でマッサージが受けられる病院がありました。感染予防策のために現在は中止されていますが、工夫次第で様々な取り組みが可能だと思います。

予防のポイントは自律神経を健全に維持すること

4.うつ病予防には支援者の存在が重要です

「気分が落ち込む」
「やる気が起きない」
「仕事がはかどらない」
「ミスが多い」
...などは、うつ病の精神症状です。
しかしこのような症状を自覚して精神科や心療内科を受診する人は4%しかおらず、医師の問診によって症状が発覚するという調査結果があります。
【参考】渡辺昌祐他:プライマリケアのためのうつ病診療Q&A 単行本 - 1997/4/1

私は、この結果を知った時、衝撃を受けました。

本人が自覚できないからこそ重症化してしまうのだ!
セルフケアが難しい疾患なのだ!

だからこそ、本人任せにしていてはいけない。支援できる人の存在が不可欠。うつ病にならないことを目指すより、「うつ病にさせないこと」を目指すことで予防につながります。適切な対応ができる支援者を一人でも多く増やしたい、そんな思いでうつ病にさせないためのアドバイザーを育成しています。



まとめ

冒頭で紹介した方が、うつ病を30年患っている理由、もうお分かりでしょうか。NIOSH職業性ストレスモデルの4つの要因で理解できるのではないかと思います。
看護は過重労働になりやすい仕事です。誰にでもメンタルヘルス不調やうつ病のリスクがあります。また、うつ病は本人が気づけない病気。周りが「あれ?大丈夫かな?」と気になった時に適切に関わることが予防の重要なポイントです。

うつ病予防を学んだ看護師さんが口をそろえて言います。
「私たちは治療や看護は学んできたが、予防は学んでこなかった」

この機会に、うつ病予防について少しでもご理解いただけたら幸いです。



ライタープロフィール

【時任春江】
総合病院で看護師として25年間勤務。
離職後、心拍変動解析によるストレス測定を取り入れた研修を行うようになった。2016年一般社団法人設立し、一般企業、医師会等からの研修や講演を受ける。「うつ病にさせないためのアドバイザー」を640人以上育成。また、看護師の市民活動団体One Nurseを運営している。

一般社団法人日本疲労メンテナンス協会ホームページ
市民活動団体One Nurseホームページ


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