
7月から9月頃までちょっと少ない人数で臨む夏休みシフト。それは看護師にとって、毎年訪れる“山場”のひとつです。お盆は患者さんの動きが一時的に落ち着くこともありますが、スタッフの休み希望が重なり、人員配置がぎりぎりになってしまうことも少なくありません。
「あれ?今日の日勤この人数?」「また夜勤リーダー自分かも……」といった声がちらほらと聞こえてくる、そんな時期。体力も気力も奪われがちなこの季節に、現場を支えてくれる“力”があるとしたら、それは特別な技術や道具ではなく「言葉」かもしれません。
目次
忙しいときほど、声をかける勇気を
バタバタと始まった朝の業務。つい挨拶もそこそこに、申し送りや処置に追われてしまいがちです。でも、そんなときこそ「おはようございます。今日もよろしくお願いします」の一言と笑顔が重要です。
「今日も暑いですね」「昨日、夜勤だったんですよね?お疲れさまでした」――そんな共感を添えるだけで「あ、気にかけてもらえてるな」と感じられて、自然と心がほぐれます。「ちゃんと見てくれている」「ありがとうと思ってくれている」たったそれだけで、人はスッと前向きになれるんですよね。
感謝は、できるだけ“具体的”に伝える

忙しいと「ありがとう」の一言で済ませてしまいがちです。
もちろん、それだけでも嬉しいものですが、もしそこにもう少しだけ具体性を加えられたら、その“ありがとう”は、相手にとって何倍も力強い言葉になります。
たとえば「急変の対応、落ち着いててすごく頼もしかったよ」とか「ナースコール、さっと対応してくれて助かったよ」「物品の補充もばっちりだったよ」など。
「あなたのこういうところが素晴らしかった」と言ってもらえると、自分の存在が認められたように感じて嬉しくなります。
イライラしたときほど、言葉を“変換”する
人手が少ないと、どうしても気持ちに余裕がなくなって、つい強い言葉が出てしまうことがあります。
でも「なんでこれやってないの?」ではなく「これ、どこまで進んでる?一緒に確認しようか」に変えるだけで、相手の受け取り方は大きく変わります。
「早くやって!」ではなく「少し急ぎたいところなんだけど、手伝えることある?」と伝えると、相手も責められている感じがせず、素直に応じられるものです。
感情をそのままぶつけるのではなく、ひと呼吸おいて、言い換える。
それだけで、現場の雰囲気がぐっと穏やかになります。
「ペップトーク」で、仲間を前向きに
「ペップトーク(pep talk)」を知っていますか。ペップトークとはスポーツの現場などで、選手を前向きに鼓舞するための“短くて力強い言葉”のことです。
実はこのペップトーク、看護の現場でもとても有効です。
たとえば、朝の申し送りのときに「昨日も乗り切ったし、今日もいけるね」とか「大丈夫、みんなでやればきっとできるよ」と声をかけるだけで、ふっと空気が前向きになります。何か失敗してしまったときも「気づけたことがすごいよ。そこから学べば十分」そんな励ましの言葉があると「次はもっと良くしよう」と思えるようになります。
言葉ひとつで、空気は変わる
現場の空気を良くするために、難しいことをする必要はありません。
たとえば「できていないからダメ」ではなく「ここまでできたから大丈夫」と言い換えてみましょう。「また私ばっかり…」という思考を「任せてもらえているから」と前向きに捉えましょう。言葉をほんの少し変えるだけで、周囲の空気がやわらかくなり、自分自身の気持ちもほぐれていくのを感じられるはずです。
そして、自分自身にも“優しい声かけ”を
忘れてはいけないのは「自分にもペップトークを」してあげること。
看護師は誰かのために尽くすことが多い職業ですが、自分自身の心の声にも耳を傾けてみてください。「よくやってる、今日もがんばった」「ミスしても大丈夫。次に気をつけよう」
「あと2日でお休みだ!」と前向きな一言を自分にかけると、心の中に“ちょっとした余白”が生まれてきます。

まとめ:その一言が、誰かを支えている
夏休みで人が少なくなる忙しい時期だからこそ、言葉の力が試されるのかもしれません。
大変な現場を支えているのは、間違いなく「人の力」ですが、その人の力を引き出すのは、あなたの「一言」かもしれません。
誰かを気にかけること。
感謝を言葉にすること。
前を向けるように背中を押すこと。
それらはすべて、特別なスキルではなく、明日からでも始められる小さな行動です。
この夏、きっとあなたの一言が忙しい現場を乗り切る切り札になるはずです。
ライタープロフィール
【西山妙子 (にしやまたえこ)】ナースLab認定ライター
総合病院の外科、脳外科、I C U、大学病院支出室を経験し結婚、子育てを経て訪問看護の道へ。199床総合病院の看護部長を経験した。現在は訪問看護ステーションに非常勤として働く。看護師の横のつながりや多様な働き方、ライスタイルを提案するナースのためのオンラインサロン「ナースライフバランス研究室」を2017年より企画運営(現在会員約1500ほど)ナースまつり2025大会長。
看護師による看護師のためのwebメディア「ナースの人生アレンジ」