私の勤務する病院では、毎年7月から8月にかけて定期健康診断が実施されます。
この時期が近づくと、1か月ほど前から体重管理を始めたり、お酒を控えたりする人もチラホラ見られます。中には「最近、暴飲暴食が続いて体重を知りたくないから受けたくない」という声もあります。
そもそも健康診断は受けなくてもよいのでしょうか?
労働安全衛生法とは?
みなさんは「労働安全衛生法」という法律をご存じでしょうか。
この法律は、労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境を整備することを目的としています。その中で事業者に課されている義務の一つが健康診断の実施です。
労働安全衛生法第66条には、
「事業者は、労働者に対し、医師による健康診断を行わなければならない」
と規定されています。実施されていない場合、労働基準監督署から指導が入り、それでも実施されていない場合、事業者には50万円以下の罰金が科される可能性があります。
健康診断は受けなくてもいいの?
労働者については同条第5項で、
「労働者は、事業者の行う健康診断を受けなければならない」
とされています。ただし、労働者の受診義務には罰則規定はありません。
しかし職場のルールである就業規則で受診が義務付けられている場合もあり、就業規則に基づいて懲戒処分を受けることもあるので注意が必要です。
ただし、事業主が指定した医師による健康診断を受けたくない場合であっても、かかりつけ医などが実施する健康診断が同等と認められ、その結果を提出すれば「受診したもの」とみなされます。
健康診断の種類
健康診断は大きく分けて「一般健康診断」と「特殊健康診断」があります。
・一般健康診断
職種に関わらず実施されるもので、雇い入れ時およびその後1年以内ごとに1回、定期的に行われます。
また、22時~翌5時に勤務する夜勤労働者(常態として週1回以上または月4回以上)は、年2回の健康診断が義務付けられています。夜勤は生活リズムやホルモンバランスに影響し、心身の不調につながるリスクがあるため、法律で特に配慮されているのです。・特殊健康診断
法律で定められた有害業務に従事する労働者が対象です。たとえば、鉛や有機溶剤、石綿(アスベスト)などを取り扱う職場で働く人に義務付けられています。
また放射線業務に従事し管理区域に立ち入る労働者にも義務付けられており、雇い入れ時、配置換えの際及び6か月以内に1回行われます。血管造影室で勤務する看護師などが該当します。
健康診断にかかる費用や賃金について
それでは健康診断の費用は誰が負担するのでしょうか?また健康診断は労働者の義務ですが、「その時間は勤務扱いになるの?」と気になる方も多いのではないでしょうか。
・健康診断の費用は誰が負担するの?
労働安全衛生法に基づき実施される健康診断の費用は、事業主が負担することとされています。(注1)
・健康診断時は賃金が支払われるの?
健康診断の受診に要する時間の賃金については、法律上「当然に事業主の負担」とはされていません。しかし、厚生労働省は「受診に要した時間の賃金は事業主が支払うことが望ましい」としています。(注2)
まとめ
健康診断の目的は、自分自身の健康状態を把握し、病気の早期発見・早期治療につなげることにあります。事業主にとっても、従業員の健康を把握し、業務による健康障害を予防・早期発見することで、安全な職場環境を維持することにつながります。
健康管理の観点だけでなく、会社と従業員の双方が労働安全衛生法を遵守するためにも、健康診断は非常に重要なものだといえるでしょう。
【記事を作成する際に参考にしたサイト】(注1、注2)
厚生労働省
健康診断の費用は労働者と使用者のどちらが負担するものなのでしょうか?
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/faq/1.html
(2025年9月15日)
厚生労働省
健康診断を受けている間の賃金はどうなるのでしょうか?
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/faq/2.html
(2025年9月15日)
ライタープロフィール
【根岸有】看護師 社会保険労務士
急性期の総合病院にて集中治療室、救命救急センター、一般病棟やコロナ病棟などでの看護師歴20年以上。現在は混合病棟に勤務している。その傍ら2020年に社会保険労務士資格試験に合格し2021年に社会保険労務士登録。現在は医療従事者などを対象に労務や社会保険の知識などの普及活動を行っている。




