近すぎず遠すぎず 患者家族との向き合い方

ナースライター ふじエミ
ナースライター ふじエミ
近すぎず遠すぎず 患者家族との向き合い方

「話が通じない」「感情的でつらい」「どう接すればいいかわからない」
患者家族の対応に悩んだ経験はありませんか。患者家族との関係は看護ケアに大きく影響します。家族のかたちが多様化する今、患者家族の医療者に対する距離感や感情表現も一様ではありません。医療者が患者や患者家族の背景や思いを受け止めようとすればするほど、気づけば自分の心がすり減ってしまいます。患者家族に寄り添いつつも、看護師自身の心を守るための向き合い方を考えます。



苦手意識は誰にでもある

患者家族と関わる中で「この方とは関わりにくい」と感じた経験は誰しもあるでしょう。
たとえば、毎日何度も同じような質問を繰り返す人、怒りっぽく医療者への不信感が強い人、あるいは声をかけても反応が少ない人などです。
こうした場面では「自分の対応が悪かったのかも」と落ち込むときもあります。感情的な言葉や強い要求に直面して動揺するのは、人として自然な反応です。無理に克服しようとすると、かえって心の負担が大きくなります。
大切なのは「苦手だ」と気づく自己理解です。その気持ちに気づき「どう関わるか」と同時に「自分の心をどう守るか」にも意識を向けてみましょう。
関わりづらさを感じたときは必要以上に頑張りすぎず、サポートを受けながら対応する選択肢もあります。
苦手意識を自然な感情として受け止め、次の行動にどう活かすかがポイントです。



見えない家族の背景に想像力をもつ

見えない家族の背景に想像力をもつ

感情的、強い不信感、無関心――。
一見「対応が難しい」と思える患者家族の態度にも、その人なりの背景が隠れています。
長年の介護疲れや複雑な家族関係、過去の医療体験の影響、生活や仕事上のストレスなどが要因になる場合も少なくありません。
家族理解の視点として、次のような理論が役立ちます。


  1. ・ 家族システム理論(家族を一つのシステムとみなし、誰かの変化が全体に影響するという考え方)
  2. ・ 家族発達理論(家族もライフステージごとに発達段階や課題が変化していくという視点)
  3. ・ 家族ストレス対処理論(家族が直面するストレスに、どう対処し適応していくかを理解する枠組み)

家族を一つのまとまりとして捉えると、表面的な言動の背後にある事情に気づきやすくなります。ただし「理解して信頼関係を築かなければ」と力みすぎると、逆に疲弊する恐れがあります。看護師が一人で解決できない課題も多いため、医療ソーシャルワーカーや地域連携スタッフにつなぐ対応も重要です。
大切なのは、背景を想像しつつも巻き込まれすぎない姿勢です。すべての家族が患者さんを支える資源になるとは限りません。介入の度合いを見極めることで、看護師自身の心を守れます。



看護師のバランス術―距離感もケアの技術

患者家族との関係は、距離感のさじ加減が難しい部分です。真面目で責任感の強い看護師ほど「良好な関係=密接な関わり」と考え「もっと寄り添わなければ」と力みがちです。
信頼関係は重要ですが「どこまで関わるか」「どこから線を引くか」を状況に応じて調整するのも、看護師に求められるスキルです。
感情的な家族には事実を淡々と伝え、無関心な家族には必要な情報だけを届ける、意見が割れているときは「誰が決定権を持つのか」を確認します。冷たい対応ではなく、近すぎず遠すぎずの関わりを続けるための工夫です。
「この人は苦手だな」と感じたら、一人で抱え込まずチームに相談しましょう。対応を分担し時間を区切ることで、個人の負担感はぐっと軽くなります。看護師が自分をすり減らさない関わり方は、患者家族にとっても安定したケアにつながるのです。



うまくできなかった日があってもいい!

患者家族への対応もうまくいく日ばかりではありません。説明が十分に伝わらなかったり、空気が重くなったり、思わぬ一言で気まずくなったりするケースもあります。そんなとき「失敗した」と自分を責めるのではなく「次はこうしてみよう」と切り替える判断も大切です。
家族との関わり方に正解はありません。試行錯誤を続けながら、少しずつ経験を積んでいくものです。家族看護の理論が示すように、多様な家族の関わりは状況や発達に応じて変化します。その変化に向き合う過程が学びとなり、対応の幅も広がります。さらにチームで経験を共有すれば、一人では気づけなかった視点も得られるでしょう。
完璧を求めすぎず、今日の経験を明日につなげると、看護師としての対応力は自然に高まっていきます。



まとめ

患者家族の背景に配慮しながら信頼関係を築くことは看護に欠かせません。ただし、すべての家族とうまく関わろうと無理すると、看護師自身が疲れてしまいます。
相手の背景を想像し、適度な距離を保ちつつ、理論やチームの知恵を活かした関わりが重要です。完璧を求めず、経験を次につなげる姿勢が、看護師の心を守りながら家族にも寄り添うケアにつながります。



参考文献

厚生労働省. (2018). 人生の最終段階における医療体制整備事業 報告書. 厚生労働省
日本家族看護学会編. (2020). 家族看護学 理論と実践 第5版. 南江堂
日本終末期ケア協会 編. (2019). 家族ケアの基本と実践. 日本看護協会出版会
日本看護協会. 看護倫理:基本的な問題と課題―信頼関係. 日本看護協会



~ライタープロフィール~

【ふじエミ】ナースLab認定ライター
家族ケア専門士、元緩和ケア認定看護師。急性期やがん看護を経験し、三児の母として子育てと両立しながらクリニック勤務。カラーアナリスト・色彩講師としてアピアランスケアに取り組み、看護と色彩で笑顔を支える。

看護師による看護師のためのwebメディア「ナースの人生アレンジ」


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