患者さんや人のために、そして仕事の責任を果たすために...気が付けば自分のことは後回し、走り続けていませんか?
「役に立たなきゃ」「もっと成長しなきゃ」という思いやりや向上心は、看護師をはじめとした対人援助職の大きな強みです。強みとはいえ、過度な思いやりや向上心によって、心や身体が知らず知らずのうちに疲れ切ってしまうこともあります。マインドフルネスは、忙しくいろいろなことがある毎日の中、自分に優しく意識を向けるきっかけを与えてくれる時間です。本コラムでは、マインドフルネスの基本や期待できる効果を解説し、忙しい日常の中でも無理なく取り入れられるヒントをお届けします。
目次
マインドフルネスの源流は瞑想
マインドフルネスの源流は、2600年前のお釈迦様の瞑想にあります。その後、1970年代にアメリカのジョン・カバットジン博士が、西洋科学と瞑想を統合し、慢性疼痛を抱える方やストレス低減のための方法として体系化し、欧米で広がりました。
現在では日本でも、Googleなどの大手企業をはじめとしたビジネス分野、スポーツ、医療の現場で取り入れられています。YouTubeでも多くの動画が公開され、少しずつ日常に浸透しつつあります。
脳のトレーニング、怪しくない!

「瞑想が源流」と聞くとスピリチュアルや宗教的なイメージで怪しく感じるかもしれません。マインドフルネスは宗教性を取り除き、どの文化や宗教の人でも実践できます。一部の研究によると、マインドフルネスを継続すれば脳の注意力や自己認識、感情のコントロールに関わる部位が厚みを増すこと(灰白質の密度増加など)が報告されています。つまりマインドフルネスは、集中力や感情の調整力、自己認識能力、自己統制能力を高める「脳のトレーニング」なのです。
ぼんやりしても考えが浮かぶ脳の活動ー疲労予防のために、立ち止まろうー
私たちの脳には、自然と考えが浮かぶ「デフォルトモードネットワーク(DMN)」という働きがあります。これにより過去を振り返ったり、未来について計画したりできるのです。役立つ機能とはいえ働きすぎると、思考や心はさまよい、疲れやストレスにつながることがあります。実際、私たちが「今この瞬間」を意識している時間は、1日の約半分ほどです。忙しい毎日、情報や変化にあふれる現代社会だからこそ、意識的に立ち止まり、心を今に戻す時間が大切です。それがマインドフルネスです。
穏やかな心の土台は「無意識ではなく意図的に」「ジャッジしない態度」
ジョン・カバットジン博士は、マインドフルネスを「この瞬間の体験に、価値判断をしないで、意図的に意識(注意)を向けることによって生まれる気づき」と定義しています。
ポイントは、意図的に今この瞬間の体験に意識を向けることです。この実践を通して集中力が高まり、意識が逸れては気づくというプロセスを繰り返すことで、自分の内側で起こっていることを観察する力が養われます。
さらに「ジャッジしない態度」を意識することで、次のようなメリットがあります。
- ・「呼吸から意識が逸れてしまった。駄目だ、失敗した」と自分を責めたり、駄目出ししたりすることが減る
- ・自分自身に優しさを向けられるようになる
- ・出来事にすぐ反応せず、心を落ち着かせる訓練になる
- ・集中力ー1つのことに注意を向け続ける力
- ・観察力ー自分や周囲の変化に気づく力
- ・ジャッジしない姿勢ー物事や自分、他者をそのまま受け止める力
- ・自分に向ける優しさー自分を責めすぎず、いたわる力
シンプルな実践ー呼吸に意識を向けてひと休み
マインドフルネスの実践は、とてもシンプルです。まず、普段あまり意識しない呼吸や音など、五感の中から1つに意識を向けてみましょう。考えが浮かんで周りの環境に気が逸れても大丈夫。そのたびに、また注意を1つに絞り戻すだけで十分です。
今回は「呼吸」に意識を向けるマインドフルネスを紹介します。
【呼吸に意識を向ける手順】
- 1.姿勢を整えて座る
- 2.目は軽く閉じるか優しく斜め下1点を見つめる
- 3.手は太ももや膝の上に置く
- 4.呼吸に意識を向ける
(鼻先の空気の出入りやお腹の動きに意識を向ける) - 5.気が散ったら意識が呼吸から離れたことに気づいて、また呼吸に注意を向ける
(「失敗」「だめ」と評価せず、再び呼吸に意識を戻す) - 6.繰り返す

吐く息で副交感神経が優位になり、リラックス効果も期待できます。
他にも「食べる」「歩く」など、日常の動作を使ったマインドフルネスもあります。YouTubeなどの動画を見ながら試すのもお勧めです。
研究からわかる「少しずつでも続けることの大切さ」
科学的な研究では、毎日数分でも続けるだけで心や脳に良い変化が現れることがわかっています。
- ・1日13分のマインドフルネスを8週間続けた場合、注意力、記憶力が高まり、気分や感情のコントロールが向上したことが報告されました。(PubMed, 30153464)
- ・初めての方でも、1日平均16~23分のマインドフルネスを6~8週間続けた場合、ストレスの軽減や生活の質の改善がみられました。(PubMed, 30881517)
「ちゃんとやらなきゃ」と思う必要はありません。
できる日、できる分だけで大丈夫。
そんな小さな時間の積み重ねが、忙しい毎日の中を頑張るあなたの心を支える力となります。
注意点ーしんどくなる場合もある
マインドフルネスは多くの人に役立ちますが、すべての人に安全とは限りません。心の状態によっては専門家の指導が必要な場合もあります。
特に、心の病で通院中の方やうつ・不安など症状が強い方、トラウマの治療を受けている方は、自己流で実践すると症状が悪化することもあります。安全に取り入れるためにも、心身に不安がある場合は、事前に専門医や治療従事者に相談しましょう。
まとめ
大切な人や仕事の役割を果たし続けるためにも、まずは自分自身を大切にすることが必要です。心と身体が疲れきってしまう前に、マインドフルネスを日常生活に取り入れ、少し立ち止まってみませんか。本コラムが、自分を大切にする第一歩になり、自分らしい人生を送る一助となれば幸いです。
【参考文献】
1)吉田昌生:マインドフルネス瞑想入門.WAVE出版.2024
2)J.カバットジン,春木豊:マインドフルネスストレス低減法.北大路書房.2007
ライタープロフィール
【生和佐梛】
精神科認定看護師・キャリアコンサルタント・公認心理師・産業カウンセラー・リフレクソロジー(JHRS)・マインドフルネス・コンパッションヨーガ講師(IMCJ)などの資格を取得しています。MBSR8週間修了。メンタルヘルスの不調により休職した方への復職を支援しています。




