モニター心電図では、Ⅰ~Ⅲ誘導という3通りの心臓の電気信号を見る角度があります。一般的にはⅡ誘導で設定されており、多くの病棟でⅡ誘導のまま見続けていることが多いのではないでしょうか。Ⅱ誘導は、リズムを見るには十分で、特に問題がなければそのままにしてしまいがちです。しかし、ちょっと立ち止まってⅠ誘導に切り替えてみると、今まで見えていなかった違和感に気づくことがあります。本稿では、右脚ブロックを例に「なぜⅠ誘導を見るのか」という視点から、ナースが心電図をスルーしないための考え方を整理します。
1.心電図が難しく感じる理由
心電図が苦手、と感じる理由は「覚えることが多いから」だけではありません。臨床では、心電図の結論(診断名)だけが共有され「なぜそう判断したのか」という過程はほとんど語られないからです。そのため、同じ心電図を見ても「自分には同じ判断ができない」と感じてしまうのです。また、心電図を「正解を当てるもの」と思ってしまうと、苦手意識につながります。実際の臨床でナースに求められるのは、診断名をあてるより「変化に気づき、伝えること」です。
2.所見と診断名は別物
ここで整理しておきたいのが「所見」と「診断名」の違いです。所見とは、心電図の波形から事実としていえること。一方、診断名は所見に症状や背景、検査結果を加えて導かれるものです。診断名をつけるのは医師の仕事です。しかし、診断に至る過程の推測まで手放す必要はありません。むしろ臨床推論があると、医師への報告や相談はスムーズになります。「診断しなくていい」と「考えなくていい」は、同じではないのです。
3.モニター心電図で変化を感じたら
今回は右脚ブロックの場合を例に心電図の変化とその対応について解説します。
右脚ブロックは、心電図でよく目にする所見のひとつです。単独であれば、臨床的に大きな問題とならないことも多く「いつものこと」として流されがちです。しかし、新たに出現した右脚ブロックや、症状を伴う右脚ブロックでは話が変わってきます。新規の右脚ブロックは、左前下行枝(LAD)近位部の心筋梗塞や、肺塞栓症のように、右心室に急激な負荷がかかった状態で見られることがあります。これらは現場では「超急性期として迅速な対応が求められる病態」です。
患者さんに症状がある、またはモニター心電図に変化があると感じたら、1誘導に切り替えてみます。ここで注目してほしいのが、モニターⅠ誘導の遅れて出てくるS波です。右脚ブロックでは、右心室の興奮が遅れるため、QRSの後半にもたついたS波が目立つことがあります。「QRSの終わりがスッと切れない」「いつもよりQRSが長く見える」そんな違和感が、右脚ブロックに気づくきっかけになります。モニターだけで診断をつける必要はありません。しかし、この違和感に気づけることが、12誘導心電図を取りにいく判断や、次の行動につながります。
4.ナースに求められる右脚ブロックの見方
ナースに求められているのは、診断名を言うことではありません。所見に気づき、前回と比べ、症状やバイタルと合わせて考え、それを自分の言葉で伝えることです。たとえば「新規でQRSが広がっていて、Ⅰ誘導でS波が目立ちます。前回とは波形が違います」この一言だけでも、医師の判断を助ける大きな情報になります
5.「ナースだからやらなくていい」に違和感を覚えたら
「ナースだからそこまで考えなくていい」そんな言葉に、がっかりした経験はないでしょうか。できることがあるのに、職種や慣習を理由に線を引かれてしまう。医療は少しずつ変わりつつありますが、変われるのは他人や環境ではなく、いつも自分自身です。「ナースでもできる」を増やしていく、その積み重ねに学びの本質があると、私は感じています。
まとめ
心電図は、正解を当てるためのものではありません。所見と診断を分けて考えられると、心電図を読むことが少し楽に感じられます。右脚ブロックは、その第一歩にちょうどいい題材です。モニターⅡ誘導で終わらせず、Ⅰ誘導に切り替えて立ち止まる。その小さな一歩が、患者さんを理解する力につながります。忙しい現場の中で、心電図を前に「う?」と考える時間が、私は好きです。
~ライタープロフィール~
【ベッカミ】
JHRS認定心電図専門士、心電図検定1級合格。
心臓カテーテル室で勤務する看護師。院内勉強会をきっかけに12誘導心電図を学び、臨床経験を通して、心電図を「診断名ではなく所見から考える」面白さに気づく。現在は、ナースが心電図を臨床で活かせるよう、オンライン勉強会や心電図コミュニティ「be Navigator」を運営している。




