看護師としてキャリアを積みたいけれど、プライベートの時間も大切にしたい。仕事が忙しすぎて自宅と職場の往復で日々が過ぎてしまう。そんな悩みをお持ちの看護師は多いのではないでしょうか。
私が子育てしながら勤務した地域包括ケア病棟では、ワークライフバランスの実現とスキルアップを目指せる環境でした。6年間勤務した経験から地域包括ケア病棟のリアルな魅力をお伝えします。
目次
1.地域包括ケア病棟ってどんなところ?
地域包括ケア病棟は、急性期治療を終えた患者さんが、在宅復帰に向けてリハビリしたり支援を受けたりしながら過ごす病棟です。在院日数に期限(最大60日)があるため、入院時から退院後の生活を見据えた支援を始めます。
具体的には、ご本人やご家族の希望を聞きながら、ADLのゴール設定や退院先の住環境、介護度の見直し、サービスの調整などをしています。
そのため、医師だけでなくPTやOT、ST、ソーシャルワーカー、管理栄養士、担当ケアマネージャーなど、多職種間で連携しながら支援を進めます。
急性期は「命を守る治療」が大切な役割ですが、地域包括ケア病棟の役割は「生活を支える支援」です。
患者さんは高齢の方が多く何らかの疾患を持っているため、日々の看護はバイタルサイン測定や注入、吸引、点滴、採血、褥瘡処置、インスリン注射、排便コントロールなど多岐に渡ります。
2.どんな患者さんがいるの?
急性期での治療は終えたけれども、リハビリや療養の継続が必要なため転院される患者さんが最も多くいます。慢性心不全や糖尿病など慢性疾患が悪化し自宅や施設から入院される方、ご家族など介護者のご事情(レスパイト)による理由で入院される方も。
病院により対応できる診療科は異なりますが、私が勤務していた病院では内科や外科、整形外科、人工透析科の患者さんが多かったです。
患者さんのADLは、自立されている方、全介助が必要な方、認知症のある方などさまざまでした。
3.看護師の配置は?
厚生労働省の定めで看護職員の配置は13対1となっていますが、定めより看護師の配置人数が多い病院もあるようです。私が勤務していた病棟では日勤も夜勤も定め通りの人員配置でした。しかし、状態が良くない患者さんや不穏症状が出ている患者さんがいる場合は忙しいことも。
ただ、以前勤務していた急性期と比べると、状態が落ち着いている患者さんが多いこともあり比較的落ち着いていました。
4.看護師のやりがいは?
地域包括ケア病棟では、患者さんが安心して自宅や施設に退院できるように支援することも大切な看護の一つです。
患者さんが目に見えて回復するといった経過を辿るわけではありませんが、笑顔で退院されたり、ご家族から「相談できて良かった」「気持ちを聞いてもらって安心できた」と言われたりすると、看護師としてとてもやりがいを感じます。
私が担当した患者さん(90歳代)は「本当は自宅に戻りたいけれど、家族に心配をかけるから施設に入る」と話されていました。ADL的には転倒するリスクがあり、実際に転倒による骨折で手術しリハビリ目的で入院していたのです。ご家族も仕事のため同居できず、自宅と施設どちらが良いのか悩まれていました。
医師やPT、OT、医療ソーシャルワーカー、管理栄養士とカンファレンスし、全身状態の経過とご自宅の環境、リハビリによるADLアップ(この患者さんの場合は安全に歩行する)の可能性について、何度も話し合いました。
例えば、夜間の排泄はポータブルトイレとおむつパッドのどちらが良いのかを検討し、患者さんのご意向も確認しながら評価します。他には食事や水分は自身でしっかり摂取しているか、ベッドをどこに設置すると安全に立ち上がれるか、歩行時のバギーはどれが良いのかなど、一つひとつを試しました。
またご家族が面会に来られた際は、患者さんの様子をお伝えし、ご家族の気持ちに耳を傾けていたのです。
いよいよ退院先を決定する時期となり、患者さんとご家族で話し合いを重ねた結果、転倒するリスクがあってもご自宅に戻るという結論を出されました。
すぐに退院前のカンファレンスを開き、担当ケアマネージャー、訪問看護師、訪問リハビリ、福祉用具の担当者が訪問リハビリやヘルパーによる見守り、福祉用具など必要なサービスを確認・調整し退院の日を迎えたのです。
退院当日、患者さんからは「何度も話を聞いてもらい、先生や皆さんのアドバイスから、残りの人生について家族と話し合えました。ありがとうございます」といった言葉がありました。
ご家族からは「入院した時は施設しか考えられなかったですが、母の本心を聞けたし、みなさんにいろいろと助けていただいたし、子どもとして母の気持ちを尊重できる結果になってよかったです。転倒や寝たきりになる可能性について話してもらったことで、心構えもできたと思います」といった言葉も。
5.地域包括ケア病棟は残業が比較的少ない
地域包括ケア病棟の特長は、残業の少ないことかもしれません。
患者さんの状態は概ね安定しており、予定入院が多いため、慌てずに受け入れの準備が可能です。私のいた病棟では、急性期病棟より点滴や採血などの検査が少なかったため、落ち着いて日常業務を進められました。
患者さんの急変や緊急入院の受け入れがある場合は残業になることもありますが、ほぼ定時で終われていた印象です。
6.こんな方におすすめです
● ワークライフバランスを重視したい方
急性期と比較すると残業が少なめで、ご自身やご家族との時間が確保しやすい傾向です。
● 患者さん一人ひとりとじっくり向き合いたい方
退院後の患者さんの生活を見据えて支援するため、患者さんのご希望がどうすれば実現できるのか、無理な場合はどのような選択肢が他にあるのかを考えて看護を提供します。
地域包括ケアシステムにおいて、今後、地域医療や在宅医療が重視されるため、退院支援(退院調整)看護師や訪問看護師、介護支援専門員といったキャリアにも繋がるでしょう。
● チーム医療に関わりたい方
多職種連携で患者さんを支援するため、チームワークを大切にしながら働けます。私が実際に働いてみて、職種によって患者さんをみる視点が変わることに驚いたものです。
日々の情報共有やカンファレンスなどで看護師以外の職種と関わることで、自分自身の視野が広がるのを実感できます。
● 訪問看護や地域医療に興味がある方
訪問看護や介護保険、在宅サービスの知識、チーム医療の中でのコーディネート力も必要です。入院中の患者さんに一番近い存在が看護師であるため、必要な情報を正確に捉え、伝える力も大切です。
また、慢性疾患を抱えている患者さんも多いため、疾患や必要な処置など、幅広い知識と対応力も日々の業務の中で身につきます
担当ケアマネージャーや訪問看護師と退院前にカンファレンスすることがあります。病院とは違う地域という視点での看護も学べるのです。
● 仕事復帰される方
臨床を離れていた方は手技や電子カルテの操作など不安な点が多いことでしょう。
地域包括ケア病棟の看護は多岐に渡りますが、患者さんの状態はある程度落ち着いていることが多いため、先輩看護師にも質問しやすいのではないかと思います。
在院日数も急性期より長いため、落ち着いて患者さんの情報を収集したり理解したりできると考えます。
まとめ
地域包括ケア病棟では、最新の医療技術に触れる機会はありません。しかし、生活の場に戻る患者さんを支援することで、看護師としての視野が広がり、多くの職種の方と関わることでコミュニケーション能力も自然と身につきます。
患者さんやご家族の大切な人生に関わるため責任重大ですが、その分、看護師としてのやりがいもとても大きいものです。
ご自身の働き方や今後のキャリアに迷われたら、地域包括ケア病棟で勤務されることも選択肢の一つにしていただけたらと思います。
ライタープロフィール
【梅子】ナースLab認定ライター
看護師ライター。社会人から看護師になり11年目。急性期病棟、地域包括ケア病棟、地域医療連携室に勤務。現在は、老人保健施設で勤務しながら、保護犬・保護猫に関する活動を始めるべく準備中。
看護師による看護師のためのwebメディア「ナースの人生アレンジ」




